徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 ピロリ菌除去できない

 60代の女性です。昨年、胃カメラの検査でピロリ菌がいると言われました。飲み薬で1週間除菌してもまだいたので、違う薬を1週間飲みましたが、除菌できませんでした。放っておいても大丈夫ですか。がんになる可能性もあると聞いたので心配です。



【答え】 ヘリコバクター感染症 -必ずしも胃がん発生せず-

高岡消化器内科 院長 高岡 猛(徳島市福島2丁目)

 ピロリ菌は、ヘリコバクター・ピロリといいます。ヘリコバクター感染症の除菌の対象となる疾患には、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡治療後胃があります。

 現在は主に、胃潰瘍と十二指腸潰瘍に対する除菌療法が行われています。除菌療法には、初めて除菌する1次療法と、除菌不成功例に対する2次療法が認められています。

 除菌療法としては、2000年の日本ヘリコバクター学会ガイドラインで、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、抗生物質アモキシシリン(AMPC)、抗生物質クラリスロマイシン(CAM)を1週間投与する3剤併用療法が第1選択となりました。

 当時の第1選択薬は、酸分泌抑制薬ランソプラゾール(LPZ)30ミリグラム1錠、AMPC250ミリグラム3錠、CAM200ミリグラム1錠または2錠で、この3剤を1週間、朝夕食後の1日2回投与します。この除菌法は同年に保険適用されました。

 さらに、2003年のガイドラインでは、PPIとしてオメプラゾール(OMZ)が保険適用に伴って追加されました。また2009年には、ラベプラゾールの保険適用を受け、新治療ガイドラインが発表されました。

 わが国の臨床試験では、除菌率は胃潰瘍で87.5~89.2%、十二指腸潰瘍で91.5~88%。ともに、第1選択薬で高い除菌率が得られています。CAM量の保険適用は1回400ミリグラムか800ミリグラムですが、十二指腸潰瘍は1回400ミリグラムの方が800ミリグラムより除菌率が高くなっています。

 次に2次除菌についてですが、2000年に約85~90%だった除菌率が、最近は約70%にまで低下しています。これは、CAM耐性菌の増加が原因です。

 2次除菌は従来、前述の3剤併用療法が保険の適用でしたが、2003年の学会ガイドラインで、CAMに代えて抗原虫薬メトロニダゾール(MNZ)を併用する3剤療法が推奨されました。これは除菌率90%以上と有効性が高いのですが、保険適用は2次除菌のみです。また、MNZは副作用としてアルコールとの相互作用もあるので、2次除菌中は飲酒を避けてください。

 日本では現在、3次療法は保険適用外です。3次療法の抗菌薬を変更したり薬物動態を考慮したりして、研究的な治療が行われています。ラベプラゾール20ミリグラムと、レボフロキサシン250ミリグラム、アモキシリン1グラムを、それぞれ1日2回投与することで良好な成績を残しているという報告もあります。

 浜松医科大学では▽PPZ常用量、ミタフロキサシン100ミリグラム、AMPC750ミリグラムをともに1日2回投与▽PPZ常用量、ミタフロキサニン100ミリグラム、MNZ250ミリグラムをともに1日2回投与▽PPI常用量、AMPC500ミリグラムをともに1日4回投与▽PPZ常用量とAMPC500ミリグラムを1日4回、MNZ250ミリグラムを1日2回投与-などの3次療法で、80~94%の効果を残しています。

 3次療法の必要性は今後増加するでしょう。特に、ピロリ菌と胃がんの関連は広く知られ、確実な3次療法が大事です。しかし、紹介した3次療法はいずれも保険適用されず、専門施設のみで対応しています。

 ピロリ菌感染が持続すると、胃粘膜が萎縮すると推定されています。分化度の高い胃がんは、萎縮胃炎を背景に発生するので、胃がんリスクの高い胃粘膜といえます。

 ただ、萎縮性胃炎のある胃粘膜から必ずしも胃がんが発生するわけではありません。感染者の約90%は、萎縮性胃炎があっても症状なく過ごせます。

徳島新聞2011年6月26日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.