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【質問】 ボール投げすぎ腕痛い

 少年野球チームでピッチャーをしている小学5年生の息子が、ボールを投げすぎて腕が痛いと言っています。野球ひじだと思うのですが、なかなかチームをやめることはできません。ある程度仕方のないことなのかもしれませんが、野球ができなくなるほど悪化しないか心配です。どのような状態ならどれくらい休ませるべきなのか教えてください。



【答え】 成長期の野球ひじ -部位によって重症度に差-

徳島大学病院 整形外科助教 鈴江直人

 野球をしていてひじの痛みを経験することは決して珍しくありません。私どもが調査したところ、投球機会の多いピッチャーやキャッチャーは、半数以上がひじの痛みを抱えているようです。もちろん、みんなも痛いから大丈夫というわけではありません。特に成長期に発生する野球ひじは、将来、重大な障害を残す可能性があります。

 私たち整形外科医は、骨折やねんざのように1回の強い力で起こるものを「外傷(けが)」、投球のような1回1回は何気ない動作でも、その繰り返しで起こるものを「障害(故障)」と区別しています。野球ひじは後者の「障害」に当たります。

 障害の発生する部位は、骨格が完成した成人では筋肉や腱(けん)、靱帯(じんたい)ですが、まだ身体が出来上がっていない成長期では骨や軟骨となります。つまり、同じ投球動作でひじが痛くなっても、その原因は成人と子どもでは全く別物であるため、保護者や監督が自分たちの感覚で安易に「大丈夫」と言うのは禁物です。

 ご質問についてですが、息子さんが痛がっているのはひじのどの辺りでしょうか。内側ですか?それとも外側ですか?実は一言で野球ひじといっても、部位によって種類が違いますので、順に説明していきましょう。

 手のひらを上にしたとき、ひじの親指側が外側、小指側が内側となります。まず、ひじの内側に硬く触れる骨の周囲に痛みがみられる場合は、上腕骨(じょうわんこつ)内側上顆(ないそくじょうか)という部位が障害を受けています。約9割はこのタイプで、治療は一定期間の投球中止です。具体的には2~3週間、ボールを投げることをストップし、痛みがなくなったら少しずつ投球を再開していきます。バッティングはほとんどの場合痛みを伴いませんので、続けても構いません。

 次は外側の場合です。この場合には上腕骨小頭(しょうとう)という部位が障害を受けており、一般的に離断性骨軟骨炎と呼ばれています。実はこの障害が野球ひじの中でも最も重症度が高いものになります。離断性骨軟骨炎を放置しておくと、骨の一部がはがれる「関節ネズミ」ができて激痛が出たり、骨が変形してひじの曲げ伸ばしが十分できなくなったりします。

 ひどい場合は野球どころではなく、ひじが曲がらなくて顔が洗えなくなることもあります。しかもやっかいなことに、離断性骨軟骨炎の多くは初期には痛みがほとんどありません。ひじの内側に痛みがあるのでエックス線写真を撮ったら、ひじの外側は痛くなかったのに離断性骨軟骨炎が一緒に見つかった、という例は決して珍しくないのです。

 この障害が見つかったら、治療は徹底的な安静です。投球やバッティングはもちろん、日常生活で重いかばんを持つことなども控えなければなりません。治療期間が1年以上かかることもあります。それでも治らなければ、中学や高校で手術をしなければならなくなることもあります。大変ですよね。

 このように野球ひじにも種類があり、重要なのは離断性骨軟骨炎を見落とさないことです。特に痛みの程度と重症度が必ずしも一致しないため、自己判断は危険です。一度専門医を受診してエックス線検査を受けることをお勧めします。

徳島新聞2010年11月21日号より転載

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