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【質問】 手術後の再発の恐れは

 70代の女性です。9年前に食べ物を飲み込みにくくなり、胸の痛みも伴ったので受診したところ「アカラシア」と診断されました。バルーンで食道と胃のつなぎ目を広げる手術を受けましたが、効果がなく、1年後に再手術をして成功しました。それからの8年間は良好ですが、再発の恐れや定期検診の必要はありますか。



【答え】 アカラシア -年1回の内視鏡検査を-

うがい医院 鵜飼伸一(鳴門市撫養町斎田)

 アカラシアはあまり聞き慣れない病名だと思います。発症するのは10万人に1人と比較的まれな病気で、原因はよく分かっていませんが、下部食道括約筋(LES)の神経細胞の変性、減少および迷走神経の障害が一因とされています。

 LESは、食道と胃のつなぎ目にある非常に重要な役目を担っている筋肉です。食物は飲み込むと食道から胃に自然に運ばれますが、この際、LESが弛緩して食物を胃に速やかに流します。また、胃で食物が消化されるとき、LESが収縮して胃の内容物が食道に逆流してこないようにします。

 このLESの機能障害の代表的疾患がアカラシアです。LESが常に収縮した状態になり、物を飲み込んでもLESが弛緩しないため、食物がいつまでも食道にたまってしまうのです。

 このため患者さんは物を飲み込みにくい、何かつかえた感じがする、吐いてしまうなどといった症状がでるようになります。夜遅く食事をした後で就寝すると、口や鼻に食事や唾液が逆流して枕元が汚れたという経験を持つ人もいます。

 アカラシアの診断は食道運動機能検査によって行われますが、バリウム検査でも、食道から胃へのバリウムの流れを観察し、拡張した食道を確認することで診断できます。最近よく、逆流性食道炎の診断で内服薬でも改善しない患者さんがアカラシアであることがあります。この場合は専門医の受診をお勧めします。

 治療は、薬、内視鏡を用いるものと手術があります。まず薬による治療ですが、アカラシアはLESが閉じたままの状態のため、LESの圧を下げる薬を使います。具体的にはカルシウム拮抗薬、亜硝酸製剤などですが、あまり効果的ではありません。カルシウム拮抗薬は血圧を下げる作用があるため、血圧の低い人には投与することができません。このほか、胸痛に対しては自律神経を穏やかにする薬や漢方薬(芍薬甘草湯など)を用います。

 次に内視鏡を用いた治療は、内視鏡を使いLESをバルーン(風船)で広げる治療です。バルーンを膨らませることでLESの筋肉の一部を裂き通過障害を解除する方法です。比較的軽い患者さんに有効ですが、繰り返し行うことが必要です。

 最後に手術ですが、最も確実な治療方法です。まず通過障害を治す目的で、LESを含めた食道から胃にかけて筋肉の一部を切開し切除します。次に、この筋肉を食道の約半周程度、粘膜からむいてやります。こうすると食道の前面は粘膜だけになります。食道粘膜は非常に軟らかいため食事の通過は良好となり、つかえ感などの症状はほとんどなくなります。しかし、このままだと胃から食道に物が逆流してしまいます。このため、胃の一部を用いて食道に覆いを作ります。これを逆流防止術といいます。

 質問の手術後の再発ですが、約2%の人に再狭窄があると報告されていますが、その場合は筋肉切開していますので内視鏡でのバルーンで十分な効果が得られています。また、5%前後の人に逆流性食道炎の症状が認められるようですが、PPI(プロトンポンプ阻害薬=胃酸を下げる薬)で改善しており心配はありません。

 しかし、アカラシアの方は食道がんの発生リスクが一般の方と比較して高いことが知られているので、症状がなくても年1回の内視鏡検査をお勧めします。

徳島新聞2010年4月25日号より転載

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