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【質問】 妊娠後の薬服用について

 30代の女性です。高血圧のため、3年前から降圧剤を服用しています。薬の説明書には「妊婦または妊娠の可能性がある人は内服できません」と書かれていました。近々結婚するのですが、妊娠しても服用できる降圧剤はあるのでしょうか。何か方法があれば教えてください。



【答え】 若年女性の高血圧-降圧剤変更 医師に相談を-

徳島県立中央病院 循環器内科 藤永裕之

 高血圧の患者は、日本では4,000万人程度もいます。メタボリック症候群にもかかわっており、生活習慣病として重要な疾患となっています。

 最近、日本高血圧学会がガイドラインを変更しました。それによると、正常血圧は収縮期血圧が130未満かつ拡張期血圧が85未満。正常だが少し高めの正常高値血圧(収縮期血圧が130~139または拡張期血圧が85~89)の段階から高血圧としてしっかり管理し、特に糖尿病や心血管病を有する場合は、正常高値血圧から積極的に治療するほうがよいとされています。

 高血圧は、脂質異常症と並んで、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化性疾患の大きな危険因子となります。特に徳島県においては、急性心筋梗塞の発症の危険因子のトップとなっています。血圧を十分に下げることは、その発症を抑え、健康寿命を延ばすことにつながるのです。

 近年は食生活の欧米化から、若年者にも肥満が増加し、それに伴い高血圧患者が増加しています。最も問題となるのが、その多くが未治療ということです。若年時からのしっかりした降圧治療が必要となります。

 相談者も若年性高血圧で、妊娠に安全性がある薬についての質問でした。降圧薬は、その作用の仕組みにより分類されます。ガイドラインで、胎児に安全性があり勧められている薬は、中枢性交感神経抑制薬(アルドメット)で、次に血管拡張薬(ヒドララジン)ですが、これらは比較的古い薬です。交感神経受容体α+β遮断薬(ラベタノール)と、現在よく使われているCa拮抗(きっこう)薬は、薬の説明書では使用を控えることになっていますが、患者が理解して慎重に投与すれば可能とされています。

 使用できないのは、一般によく使われているレニン-アンジオテンシン系抑制薬(アンジオテンシン受容体拮抗薬とアンジオテンシン変換酵素阻害薬)。交感神経受容体遮断薬(β、α、α+β)も控えたほうがよいとされています。

 妊娠に関連した高血圧は、妊娠高血圧症候群と妊娠前から高血圧を有する場合に分けられます。妊娠高血圧症候群では、妊娠20週以後に出現した高血圧(収縮期血圧140以上、拡張期血圧90以上)を妊娠高血圧と定義しています。収縮期血圧が160以上、拡張期血圧が110以上、または1日のタンパク尿が二グラム以上を重症とし、治療は重症のみ行い、軽症は、積極的には行わないほうがよいとされています。

 しかし、妊娠前から高血圧を有する場合、降圧薬の変更は慎重に行うべきで、変更に関しては、主治医の先生とよく相談したほうがよいでしょう。

 高血圧治療の基本は、生活習慣の改善です。食塩摂取量の制限(1日6g以下)▽肥満の是正▽運動療法▽アルコール摂取量の制限▽果物や野菜の摂取の促進▽飽和脂肪酸や総脂肪量摂取の制限▽禁煙▽過度のストレスの減少-などを行うことです。

 若年者の降圧目標値は、診察時血圧で収縮期血圧が130、拡張期血圧が85です。しっかりと降圧治療することが、心血管病の発症を予防することになります。

 なお、高血圧のほとんどが、原因が特定できない遺伝を背景にした本態性高血圧症ですが、まれに腎性高血圧や副腎腫瘍などから生じる内分泌性高血圧のように、原因がはっきりした二次性高血圧があります。若年性高血圧は、二次性高血圧のことがあり、その場合、原因を治療すれば高血圧は治ります。精査されていない場合は、一度主治医に相談されることをお勧めします。

徳島新聞2009年4月5日号より転載

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