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【質問】 魚介類好きだが感染心配

 20代の女性です。体調が悪いときに魚介類を食べると、アレルギー症状が出る体質です。カキは大好きで食べてもアレルギー症状は出ないのですが、A型肝炎に感染するということを聞いてから心配になっています。潜伏期間を経てその後、肝炎が発症するようなことを聞きましたが、本当なのでしょうか。A型肝炎は慢性化するようなことはないのでしょうか。年末年始に海外旅行も予定しているのですが、もしものときに持っておけばよい薬があれば教えてください。



【答え】 A型肝炎 -冬から春に流行、加熱調理を-

健康保険鳴門病院 内科主任部長 武市 俊彰

 食物アレルギーとA型肝炎の関連や、両者の合併による臨床経過の違いについては研究されていないと思いますので、それぞれの項目について説明します。

 A型肝炎は、かつて流行性黄疸(おうだん)や伝染性肝炎とされていた疾患で、感染者のふん便やだ液から排出されたA型肝炎ウイルスが口から感染、発症する急性の感染症です。感染後約30日の潜伏期を経て、発熱、全身けん怠感、食欲不振、黄疸などの症状を発症、通常2カ月以内に治ります。慢性肝炎に移行することはありませんが、まれに感染が長引くことがあります。

 2割前後は症状がはっきり出ない不顕性感染で治ります。感染が終息し、抗体ができると再感染することはありません。ふん便中に排せつされるウイルスは、黄疸が出現する約5日前から肝機能異常のピークまでの約7~11日間に渡ります。ウイルスは乾燥や冷凍には強いですが、85度に加熱すれば死滅します。

 日本では冬から春先、特に3月をピークに流行があり、水や、魚介類を介しての感染が知られています。貝類を通じて発生するのは生活排水中のウイルスが貝類の体内で濃縮・蓄積され、それを食べることで感染するからです。生ガキの食習慣のある日本では感染の根絶は難しく、流行期は加熱調理して食べた方が安全と思います。

 上下水道が完備されていない熱帯地方では、住民のほぼ100%にこのウイルスの感染歴があるため、渡航に際しては感染への注意が必要です。トイレの後と食前に清潔な水で手洗いすることが基本ですが、難しい場合も多く、少なくとも生水、生野菜、生の魚介類は食べないようにすることが必要です。

 感染を予防するため、最近はワクチン接種も行われます。ワクチンを24週の間に3回接種、急ぐ場合には2週間間隔で2回接種します。質問の人はスケジュール上、出発前に2回の接種は難しいですが、旅行先のウイルスの感染状況によっては、初回の投与だけでもした方がよいかもしれません。なお、ワクチンの投与には健康保険は使えません。在庫のない病院もありますので、あらかじめ問い合わせておく必要があります。

 次に食物アレルギーについては、原因食物の除去が基本となります。ただ、海外で初めて経験する食べ物もあり、安全性の見極めが難しいかもしれません。抗アレルギー剤を持っていくのも一つの方法ですが、過信は禁物です。食事中に口内に違和感があればすぐに吐き出してすすぎ、薬剤を服用します。

 しかし、短時間で嘔吐や皮ふのかゆみ、じんましん、発赤、せき、呼吸時に「ゼーゼー、ヒューヒュー」といった呼吸音がする喘鳴(ぜんめい)などが連続して起こるようなら、危険な状態なので至急、現地の医療機関を受診してください。

 また、食物アレルギーには、食物依存性運動誘発アナフィラキシーという、特定の食物を取った後に運動することにより、重度のアレルギー反応やショック症状を起こすタイプが知られています。質問の人は、体調不良のときにアレルギー症状が起こる体質とあるので、これに該当しないか少し気になるところです。専門医に相談し、これまでの病歴を再検討することをお勧めします。

徳島新聞2007年12月23日号より転載

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