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【質問】 孫の抜け毛が多く心配

 3歳の孫(女の子)が生後数カ月からアトピー性皮膚炎で薬を使用しています。アレルゲン(アレルギーを起こす物質)を使って皮膚反応をみるパッチテストはすべてマイナスで、アレルゲンは不明ですが、頭と顔以外に湿疹(しっしん)があり「かゆいのでかく」を繰り返しています。特に気になるのが髪の抜け毛が多く、ところどころはげたように地肌が目に付く点です。これは、ステロイド軟膏(なんこう)や内服薬の副作用で毛根に悪影響を与えているためではないのでしょうか。女の子なので、このまま指示通り薬を使用し続けてもいいのかと心配しています。



【答え】 アトピー性皮膚炎 -かゆみの悪循環脱出を-

沖浜皮フ科クリニック 院長 大浦 一(徳島市沖浜3丁目)

 質問の文章からは正確にアトピー性皮膚炎の診断がなされているのか、実際にどのような治療をされているのか不明ですが、今回は皮膚科専門医の立場からアトピー性皮膚炎とその治療について説明したいと思います。

 アトピー性皮膚炎は、よくなったり悪くなったりを繰り返すかゆみのある湿疹が出る病気で、患者の多くがアトピー素因(体質)を持っています。

 アトピー素因とは▽気管支喘息(ぜんそく)やアレルギー性鼻炎、結膜炎にかかったことがある▽家族にこれらの病気やアトピー性皮膚炎にかかった人がいる▽さまざまな物質に対して抗体(IgE抗体)がつくられやすい素因を持っている-ことをいいます。

 これまでアトピー性皮膚炎はアレルギーの病気として理解され、その人に反応するアレルゲンは何か、ダニか、ハウスダストか、カビか、卵や乳製品など食物かということが重視されてきた傾向がありました。質問にあったパッチテストや血液検査などで特定のアレルゲンを調べることは重要なことですが、その結果が必ずしも皮膚症状と関連しているとも限らず、判断が難しい場合も多いと思われます。

 というのも近年、アトピー性皮膚炎を引き起こす原因として、アレルギーとは別に、遺伝的に皮膚のバリアー機能が低いことが指摘されています。アトピー性皮膚炎の人は、皮膚の一番外側にある角質層で、角質細胞の中の天然保湿因子や角質細胞と角質細胞の間を埋めるセラミド(保湿作用のある物質)の量が正常な人に比べて減少していて、バリアー機能が弱いことが分かってきました。つまり、乾燥しやすく刺激に弱い皮膚に、さまざまな刺激要因が接触して炎症が起こると考えられています。

 アトピー性皮膚炎の状態を図に示しました。セラミドなどの保湿成分が減少した結果、皮膚が乾燥。バリアー機能が低下したアトピックスキン(アトピー素因を持っている人の皮膚)を引っかくことで湿疹ができます。さらにこの湿疹がかゆく、再びかくことで皮膚症状が悪化、慢性化する悪循環が生じます。何らかの方法でこのサイクルから抜け出すことが治療に不可欠となります。

 アトピー性皮膚炎の治療の基本は<1>原因・悪化因子を取り去る<2>スキンケア<3>薬物療法で、いずれも重要です。

 このうち今回は薬物療法について述べます。今のところ、アトピー性皮膚炎の炎症や湿疹を抑えるにはステロイド外用剤が最も効果があります。皮膚科専門医の指導により、症状にあった強さで、決められた量を決められた回数で使用すれば、全身的な副作用はほとんどないと思います。

 また、かゆみを止めたりアレルギー反応を抑えたりする内服薬の使用も有効で、毛髪への影響もないと思います。相談にある毛髪や頭皮の異常は、アトピー性皮膚炎の症状の一つである可能性が強く、皮膚科専門医を受診し相談されることをお勧めします。

徳島新聞2007年12月2日号より転載

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