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【質問】 子宮が下がり歩行つらい

 もうすぐ70歳になる女性です。近くの缶詰工場でパートで働いていましたが、1年半前から子宮が下がってきて、歩くのがつらい上、気持ちも悪いので、仕事を休んでいます。近くの産婦人科で診てもらったのですが、子宮が全部出てしまわないと手術できないといわれました。それでどうしたらいいのか困っています。よいアドバイスをお願いします。



【答え】 子宮脱 -悩まず早めに受診を-

徳島赤十字病院 産婦人科第一部長 猪野 博保

 子宮脱は老化に伴い子宮の支持組織が緩み、子宮そのものが単独で、あるいは膀胱(ぼうこう)や直腸とともに下垂し、膣(ちつ)口から出てくる疾患です。程度が軽いものを子宮下垂、子宮全部が脱出した場合は完全子宮脱、一部が出てくる場合は部分子宮脱といいます。多産や長時間の立ち仕事、腹圧が加わる重労働の女性に起こりやすい病気で、老年女性の10%程度が罹患(りかん)していると推定されています。

 早い人は40歳代から発症しますが、発年齢としては60歳以降に多くみられます。特徴的な症状は、股間(こかん)に異物を感じ、腹圧を加えると子宮脱が明確になり、午前中より午後に症状が悪化する傾向にあります。

 膀胱脱を伴うと残尿、頻尿、排尿障害がでますが、重症になると、膀胱炎、水腎症、腎不全を合併します。質問の内容から、あなたは子宮下垂から部分子宮脱の状態と思われますが、股間の異物感、おりもの、出血で生活に支障があれば治療の対象となります。

 長期間悩んだ後に受診する人が多く、治療後、もっと早く受診すればよかったと言います。子宮脱を含む骨盤臓器脱を長期間に放置すると、骨盤底筋の荒廃が進み、手術でも根治が難しくなります。完全子宮脱にならなくても治療は可能ですので、治療のできる施設を早めに受診することをお勧めします。

 保存的治療法としては、ペッサリーと呼ばれる丸いリング状の器具を膣に挿入し、子宮を人工的に元の位置に戻す方法があります。ただ、膣内に異物を挿入するので、長期間の使用で膣炎によるおりものの増加や出血があります。

 手術療法としては、子宮を残す方法と摘出する方法がありますが、発症年齢が高いこともあって、摘出する場合が多いようです。開腹は行わず膣から子宮を摘出し、膀胱、直腸、骨盤底を持ち上げます。手術時間は2時間前後で入院期間は1週間くらいですが、術後の排尿障害、残尿が多い場合は入院を延長することもあります。

 最近では、膣壁の裏にメッシュを埋め込んで補強する手術も多く行われています。始まってまだ数年なので長期の実績は出ていませんが、再発率が低く抑えられるのではと期待されています。しかし異物を埋め込むために合併症もあるようです。

 老年女性には保存的療法を勧める施設もありますが、ペッサリー療法には根治性はありません。よほどの合併症がない限り、手術療法を選択するのがよいと思います。術後の問題点として再発がありますが、手術医の熟練度と、腹圧をかけないなど術後のケアも大切です。

 また骨盤臓器脱には尿道下垂の合併があり、子宮脱がある場合は手術前に尿失禁がなくても、術後に腹圧性尿失禁が起こることもあります。子宮脱手術の際には、尿失禁対策も十分に考慮しています。

徳島新聞2007年10月21日号より転載

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