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【質問】 ステント治療の安全性は

 CT検査を受けたところ、4年前に2センチの大きさだった腹部動脈瘤が4センチになっていました。ステント治療というのがあるようですが、この器具の使用方法、安全性などを教えてください。84歳になるのですが、手術をした方がよいのでしょうか。



【答え】 腹部大動脈瘤 -出血抑え術後は回復早い-

徳島県立中央病院 心臓血管外科 筑後 文雄

 腹部大動脈瘤とは、腹部の大動脈がこぶのように膨らむ病気です。大動脈瘤は通常は無症状ですが、徐々に大きくなり、大きなものは破裂を起こします。破裂すると致命的です。

 正常な腹部大動脈の直径は2センチ未満で、大動脈瘤の直径が5センチ以上になると破裂する可能性が生じるとされ、4-5センチ以上の腹部大動脈瘤は治療が勧められています。

 残念ながら、薬で腹部大動脈瘤を治すことはできません。破裂を防ぐためには手術が必要です。

 手術には、人工血管置換術とステントグラフト留置術があります。人工血管置換術は、腹部を切開し、動脈瘤の部分を人工の血管に取り換えるものです。ご質問のステント治療とは、ステントグラフト留置術のことです。

 ステントとは金属製の網のようなもので、たたんだ状態でカテーテルという細い管を通して血管内に挿入し、目的とする部分で広げ、そこに留置することができます。狭心症や心筋梗塞(こうそく)の治療で広く用いられています。

 大動脈瘤の治療では、ステントにグラフト(人工血管)をかぶせて使用します。たたんだステントグラフトをカテーテルを介して、またの血管から大動脈瘤の部分まで進め、ここで広げて留置します。

 これによってステントグラフトが血圧を受け止め、大動脈瘤の壁には血圧がかからなくなり、拡大・破裂が防げるようになるのです。大きな手術創が不要で出血が少なく、手術後の回復が早いという優れた治療法です。

 米国では腹部大動脈瘤の半数以上がこの方法で治療されています。しかし、日本ではステントグラフト留置手術が2002年に保険対象として認められたものの、実際に用いられる製品が認可されたのは2006年7月のことで、まだ始まったばかりの治療法といえます。

 また、大動脈瘤の形態によっては使用できず、すべての患者に可能な治療法ではありません。さらに、まれにステントグラフト留置後も大動脈瘤が拡大することがあり、治療の確実性にも問題が残されています。

 今後、ステントグラフト治療が普及していくことは間違いありませんが、現時点では多くの外科医が前述の人工血管置換術を第一選択として考えています。この治療法はステント治療に比べると、体に対する負担は大きいものの、近年は80歳以上の患者にも安全に、確実に行えるようになっています。

 ご質問では、84歳で4センチの大きさですから、今すぐに手術が必要とは思えません。しかし、仮にこのままのペースで大動脈瘤が大きくなると、2年後には5センチとなり、破裂の可能性が生じてきます。

 治療に関しては、患者の持病、体力、気力、さらには人生観など、さまざまなことを考慮しなければなりません。一般的に4センチを超える腹部大動脈瘤が発見されれば、専門医である心臓血管外科医の診察を受けられ、治療方法について十分に相談されることをお勧めします。

徳島新聞2006年11月12日号より転載

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