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【質問】 少し食べただけで嘔吐

 71歳の女性です。1カ月ほど前から食事ができなくなり、少し食べただけで嘔吐します。胃の透視検査の結果、胃炎があり、逆流性食道炎と診断されました。薬を飲んでいますが、効果はありません。食道炎とはどんな病気で、どのような点に注意すればよいのでしょうか。歯が悪く、下と上半分が入れ歯なので消化も悪いのだろうと思います。味覚はありません。昨年11月、右手が白くなり、強皮症と診断され、薬を飲んでいます。強皮症と逆流性食道炎との間に関係はないのでしょうか。食事ができないので、毎日、点滴をするために通院しています。体重は次第に減ってきています。



【答え】 逆流性食道炎と強皮症 -まず生活習慣の改善を-

日比野病院 日比野 真吾(徳島市寺島本町東2丁目)

 食事が進まず、すぐに嘔吐してしまい、体重も減ってきているとのことで、不安な毎日を過ごされているようです。

 逆流性食道炎とは、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することによって、食道の粘膜が傷んで起こる病気です。最近では胃食道逆流症(GERD)と呼ばれています。典型的な症状は胸焼けですが、人によっては、のどの違和感、胸の痛み、ずっと続く咳、時にはしゃがれ声のこともあります。

 ひどくなると食欲がなくなったり、嘔吐することもあります。以前は日本人には少ない病気と思われていましたが、食生活・生活様式の欧米化や高齢化に伴い次第に増加しています。特に肥満の方や、骨粗しょう症などによって背中が丸まった方は、おなかが圧迫されて逆流を起こしやすくなっています。

 逆流性食道炎の診断は、胸焼けなどの症状が週に2回以上あるかどうか、内視鏡検査によって食道の障害がどの程度か、などによって診断します。

 次に強皮症ですが、強皮症には限局性強皮症と全身性強皮症(または全身性硬化症)があります。前者は皮膚だけが硬くなる病気ですが、後者は皮膚に加えて内臓が硬くなる病気で、異なる病気です。なぜ硬くなるのかは、残念ながらはっきりとは解明されていません。

 全身性強皮症の場合、食道の壁の筋肉の障害によって、特に胃に近い部分の食道の運動がうまくできなくなり、逆流性食道炎を起こすことがあります。ご質問の方はこの状態なのかもしれません。

 基本的な治療法は、一般的な食道炎も強皮症に伴う食道炎も同じです。とにかく胃酸の逆流を防ぐことが一番で、<1>生活習慣の改善<2>飲み薬による治療<3>手術による治療-があります。

 おなかを過剰に締めるようなベルト、帯、ガードル、コルセットの使用や、草抜きなどの前かがみの姿勢などは逆流症状をひどくします。脂肪分の多い食事やアルコール、喫煙、食後にすぐ寝ることも避けるべきです。

 食後数時間は横にならないようにし、お休みになるときには枕を高くしたり、座布団を敷き込んで上半身を高くして寝るのが効果的です。「左横向きに寝た方がいい」という研究報告もあります。このようなことに注意して逆流を減らし、胃酸を抑える飲み薬で治療します。

 薬にはプロトンポンプ阻害薬とH2ブロッカーという2種類があります。前者は、後者より強力に酸を抑える作用があり、逆流症状の強い方への第一選択薬となっています。消化管の動きを改善させる薬を併用することによってさらなる改善が期待されます。

 以上のような治療によって改善することがほとんどですが、困難な場合には手術によって逆流を防ぐ方法があり、最近では内視鏡による治療も開発されています。

 また、口腔(こうくう)内(口の中)の状態も関係します。口の中には唾液(だえき)腺という唾液の工場から、1日約1リットルの唾液が分泌されます。唾液はアルカリ性のため、食道に逆流した胃酸を洗い流したり中和したりする働きがあります。特にご高齢の方の場合、唾液の分泌量が減少しています。

 またご質問では、入れ歯を使われているとのことです。口腔ケアといって、ご自分の歯、舌、義歯を含めて口の中をさらに清潔にしたり、唾液腺を刺激して唾液を増やしたりすることも治療に有効かもしれません。

 以上簡単ですが、参考になれば幸いです。主治医の先生、歯科の先生とも、これからの方針についてよくご相談していただき、より快適な毎日となられることをお祈りしています。

徳島新聞2006年9月24日号より転載

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