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【質問】 足裏のかかとに黒い斑点

 50歳の女性です。1年ほど前から右足裏のかかとに黒い斑点があります。最近、少し黒くなってきたような気がしたので本で調べると、悪性黒色腫(メラノーマ)に似ています。今のところ特に症状はありません。メラノーマについて、詳しい症状や治療法などを教えてください。



【答え】 悪性黒色腫(メラノーマ) -早期発見、切除が最善-

徳島大学病院 皮膚科 滝脇 弘嗣(徳島市蔵本町2丁目)

 皮膚には有害な紫外線を吸収するメラニン色素が含まれています。これを作るのが皮膚にあるメラノサイトという細胞で、悪性黒色腫(メラノーマ)は、この細胞が癌(がん)化して異常に増殖したものです。

 ほくろもメラノサイトが集まった良性の皮膚変化ですが、メラノーマはほくろが癌化するのではなく、正常皮膚のメラノサイトが癌化した結果と考えられています。つまり、メラノーマは「ほくろの癌」というよりは「ほくろに似た癌」であり、やっかいなのは、初期にはほくろと見分けがつきにくいことです。

 放置するとどんどん増大し、色調(基本は墨のように黒い)は不均一、形や正常皮膚との境界も不整となり、ただれや盛り上がりを生じてきます。日本人の場合、メラノーマは足の裏や、手足のつめの下に好発します。

 ほくろは生涯のいずれの時期にも生じてきますが、メラノーマは大抵、中年以降に生じます。幼少時からあるほくろなら、サイズが大きくともメラノーマでない場合がほとんどです。しかし、中年になって初めて足の裏の黒い斑点(色素斑)に気付いた場合は、大きさをチェックしましょう。

 足の裏に限れば、直径が6~7ミリ以上ある場合は要注意です。直径6ミリ以下ならほくろであることが多く、7ミリ以上ある場合はメラノーマの場合が多いことが統計的に知られているからです。この事実は、ほくろなら無秩序な成長はせず小さいままで、メラノーマなら成長が早くて、気付いた時にはかなり大きくなっていることを意味しています。

 ご質問では色素斑の大きさが不明ですが、早期のメラノーマが6ミリ以下で見つかる場合もありますから、小さくとも色や形が変化しているのなら、皮膚科専門医の診察を受けてください。メラノーマの早期例とほくろを見分けるには、経験をつんだ医師の眼力が必要でしたが、最近では皮膚表面を数十倍で拡大観察できる機器が普及してきており、サイズが小さくてもメラノーマの特徴をとらえることが可能となっています。

 つめの下のメラノーマの早期症状は、つめを縦に走る幅広の褐色から黒色の線条です。やがてつめ全体が黒くなり、周囲の皮膚に色素がしみだすように拡大してきます。つめの色素沈着は他のさまざまな原因でも生じますが、幅が3ミリ以上ある縦の線条で、徐々に太く濃くなってくるようなら要注意です。

 体や顔に発生するメラノーマは白人に比べるとずっと少ないものの、いびつな黒褐色から漆黒のしみや隆起が増大していく場合は、その可能性があります。しかし、良性の老人性疣贅(ゆうぜい)や、皮膚癌の一種である基底細胞癌も、しばしば漆黒のほくろ状で、メラノーマとの区別が難しい場合があります。確定診断には、病変部の組織を切り取って病理組織検査を行うことが必要です。

 メラノーマはリンパ節や他臓器へ転移しやすく、かつ化学療法(抗癌剤)や放射線治療が効きにくい癌の一つです。進行すると大掛かりな切除・植皮術や切断術が必要になるので、早期に発見して切除することが最善の治療です。進行したメラノーマには、いわゆる免疫療法も試みられていますが無効例も多く、確実な効果は期待できません。

徳島新聞2006年7月2日号より転載

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