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【質問】 人前で字書くと手が震える

 30代の女性です。何年か前から人前で文字を書くときに手が震えるようになりました。ストレスを感じているときや生理の前などは特にひどくなります。「また震えるんじゃないか」という恐怖心から、より一層震えるという悪循環に陥っています。家でいるときや人に見られていなければ、震えることはありません。これが原因で落ち込んでいます。精神的なものと思っていますが、どうやって対処すればいいでしょうか。



【答え】 恐怖症性不安障害 -治療には薬物療法など-

今井メンタルクリニック 院長 今井 幸三(鳴門市撫養町黒崎)

 文字を書くときに手が震える症状は「振戦」といい、以下のようなさまざまな病気や状態に伴って表れます。

 <1>本態性振戦(物を取ろうと手を近づけたときに手や指が震えたり、一定の姿勢をとるときに震えが出たりする)<2>パーキンソン病(文字を書き続けるとだんだん小さな文字になっていく、歩くときに手を振らない、表情が乏しくなるなどの全身的な症状が出る)<3>甲状腺機能亢進(こうしん)症(首の付け根にある甲状腺が腫れ、汗かきになり、体重の減少や脈が速くなるなどの症状が出る)<4>アルコール性振戦(酒を長年、多量に飲み続けている人によく見られる症状)<5>精神的に緊張し、手がこわばって震える-などです。

 <1>と<2>は、周囲の状況によって震えの程度に多少強弱があるものの、質問にあるように「家でいるときは震えない」ということはありません。<3>は震え以外の症状がたくさんあるし、<4>でもないようです。

 以上から、質問の女性の症状は「人前で文字を書くとき(しかも見られているときだけ)に手が震えて文字を書きにくい」ということなので、<5>の精神的な緊張によるものと考えられます。

 緊張によって手が震えるというのはどういうことでしょう。誰しも、そばに人がいるときは少なからず緊張するものです。ただ、緊張も少しだけならいい結果に表れることがありますが、ひどくなると質問の女性のように「手が震えて文字が書きにくい」状態になることがあります。

 これは書痙(しょけい)といい、恐怖症性不安障害といわれる病気の症状の一つです。一般的には「対人恐怖症」といった方が分かりやすいかもしれません。結婚式の受け付けやホテルのチェックインに際して名前を書くときに手が震えて思うように書けなかったり、大勢の人前で話をするときに手や足が震えてしまうこともあります。

 この病気は、このほかに人前で赤面したり(赤面恐怖)、あるいは緊張が強いあまりに声が震えて出にくくなったりもします。最近、たくさんの人が悩んでいるパニック障害も含まれています。

 パニック障害は、パニック発作(ある日突然、動悸(どうき)がして呼吸が速く苦しくなって脈も速くなり、死ぬのではないか、との強い不安や恐怖を感じる)と予期不安(同じ不安や恐怖感がまた襲ってくるのでは、と不安になる)があり、仕事や社会生活に支障を来すようになります。

 書痙の治療は薬物療法や行動療法、森田療法、カウンセリングなどがあります。まずはかかりつけの医師、もしくは心療内科や神経科、精神科を受診してください。

 私は薬物療法(人前で文字を書く30分くらい前に安定剤を服用する。必要であれば、安定剤を毎日規則的に服用することも追加する)とカウンセリングを併用しますが、他の治療法を選択する医師やカウンセラーもいます。

 いずれにしても、自分の病気に関する十分な説明を受け、納得できる治療を受けることが大切です。

徳島新聞2005年11月13日号より転載

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