徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 肝機能検査で数値が上昇

 70代の女性です。毎年自治体の健康診査を受けていますが、肝機能検査でγ(ガンマ)-GTPが昨年は97IU/l、今年は99IU/lと高くなってきました。γ-GTPとは肝臓のどの働きの検査なのでしょうか。説明書では「アルコール性肝炎を発見する手掛かり」などと、飲酒に関する注意ばかりでよく分かりません。今後、どんな肝臓の病気に進んでいくのか、日常生活ではどんな注意が必要なのか教えてください。酒やたばこ、薬はのんでいませんし、生活も規則正しい方です。



【答え】 γ-GTP高値 -詳しい血液検査や画像診断を-

協栄内科 副院長 上村 るみ子(徳島市中昭和町2丁目)

γ-GTP高値を示す場合に考えられる疾患
疾患名
正常域慢性肝炎(非活動性)、肝硬変、
特発性門脈亢進症
軽度上昇
(正常上限
~100)
急性肝炎、慢性肝炎(非活動性)、
肝硬変、薬物性肝障害、
脂肪肝(非アルコール性)、
限局性肝障害(肝腫瘍、肝膿瘍)、
胆道疾患(胆石症)、肝細胞癌、
肝内胆汁うっ滞
(PBC、PSC=特発性硬化性胆管炎、
薬物性)
中度上昇
(100~200)
慢性肝炎(活動性)、肝硬変、
アルコール性肝障害、肝外閉塞性黄疸、
肝内胆汁うっ滞(PBC、PSC、薬物性)、
肝細胞癌、転移性肝癌、腎梗塞
高度上昇
(200以上)
アルコール性肝障害、肝外閉塞性黄疸、
肝内胆汁うっ滞(PBC、PSC、薬物性)、
肝細胞癌、転移性肝癌
※数字の単位はIU/l
 γ-GTPとは、γ-グルタミル基を他のペプチドやアミノ酸に転移させる酵素、すなわちγ-グルタミルトランスペプチダーゼのことで、γ-GTと表記されることもあります。生体内では腎臓に非常に多く含まれ、次いで膵臓(すいぞう)、脾(ひ)臓(ぞう)、精巣、小腸などに多く含まれていますが、これらの臓器に障害があっても血清中には遊出しないので、血中のγ-GTPのほとんどは肝臓に由来するものといえます。

 γ-GTP基準値は成人の男性でほぼ50IU/l以下、女性でほぼ30IU/l以下と考えられています。食事や体動の影響はほとんど受けませんが、成人では加齢とともに軽度の上昇傾向を示します。

 「γ-GTPは肝臓のどの働きの検査なのか」という質問ですが、肝臓のγ-GTPタンパクは肝細胞の小胞体(ミクロゾーム)というところで合成され、その一部は胆汁中に分泌されるため、肝細胞の毛細胆管膜と胆管上皮内に分布します。したがって<1>肝胆道系の機能異常(特に胆汁分泌異常)<2>肝細胞のミクロゾーム機能異常-を調べるために用いる検査です。

 相談の女性はγ-GTPが軽度高値を示しているようですが、アルコール、薬などを全くのんでいない人も、さまざまな病態によってγ-GTPの上昇があります。

 γ-GTPが高値を示す疾患の代表としては胆汁うっ滞が挙げられます。胆汁成分が肝細胞から胆道系を通過して十二指腸へ分泌されていますが、この過程の障害によって生じる病態が胆汁うっ滞といいます。閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん)、肝内胆汁うっ滞、肝細胞障害のときは胆汁うっ滞による誘導でγ-GTPが上昇します。また肝臓内の限局性占拠性病変、肝臓内に肉芽腫を形成する疾患、粟粒(ぞくりゅう)性に浸潤する疾患では、黄疸を伴わないγ-GTPの上昇がみられます。

 急性ウイルス性肝炎でも軽度から中等度上昇します。肝癌(がん)では、胆汁うっ滞によるγ-GTPの誘導と癌細胞自身による腫瘍(しゅよう)特異性γ-GTP産生が上昇の原因となります。また急性心筋梗塞(こうそく)やうっ血性心不全でも軽度の上昇を示すことがあります。

 血清γ-GTPは肝胆道疾患時に、ほかの誘導酵素であるALP(アルカリホスファターゼ)、LAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)と並行して変動することが多いのですが、無症候性のPBC(原発性胆汁性肝硬変)の中には、γ-GTP高値のみで持続し、病状が進行する場合もあります。

 自治体の健康診査では項目が限られているので、主治医と相談し、詳しい血液検査を受けることを勧めます。また、超音波検査、CT、MRIなどの画像診断も一度受けるといいでしょう。

 今後の日常生活の注意点は、γ-GTP上昇の原因によって変わるので、検査を受けて個々に対応していけばいいと思います。もともとγ-GTPは個体差が大きく、性や年齢、飲酒習慣、薬剤使用歴などによって測定値が変化する項目です。ほかの検査をしても特に異常が見つからず、原因を特定できない、いわゆる”特発性高γ-GTP血症“として扱われる場合もあり、あまり心配せずに受診することを勧めます。

徳島新聞2005年10月23日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.