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【質問】 体が左右に揺れる

 79歳の男性です。6年ほど前から、頭の後ろの方から変化が起き、少し体が左右に揺れるようになりました。ズボンをはくのも、柱か壁にもたれないとできません。体の安定に支障が出たようで、胸にも少し動悸(どうき)が起き、作業もできないようになりました。歩くのも、動悸と左右の揺れのために苦労するほどになってしまいました。また、便秘や下痢をすることも多くなりました。「自律神経失調症」ではないかと思っていますが、年を取った影響なんでしょうか。教えてください。



【答え】 平衡障害 -神経内科での診察も必要-

島内科眼科医院 院長 島 孝仁(阿南市富岡町東新町)

 まず、質問にある「体の左右への揺れ」ですが、規則的な揺れならば、「振戦(しんせん)」という分類の不随意運動と考えられます。この場合は「YES」か「NO」か、それが問題です。

 いったい何を言いたいのかと申しますと、例えば頭部の振戦の場合、「NO!NO!」と左右への振戦は「本態性振戦」あるいは「老人性振戦」のことが多く心配は無用です。「YES、YES」と前後への振戦はパーキンソン病などの可能性があります。ただし、いずれの場合も体の揺れは、頭や手足の震えよりも弱いのが通常です。

 そこで推測するに、質問の男性の揺れは不規則なものなので、「平衡障害」ではないかと思われます。症状が出始めた6年ほど前から、耳が聞こえにくくなってはいませんか。あるいは耳鳴りはないでしょうか。これらがありましたら、内耳系の障害による平衡障害で、耳鼻科が専門です。

 ところが問題なのは、後で出現してきた随伴症状(動悸、便秘、下痢)です。内耳系の平衡障害の場合、このような随伴症状は通常見られません。体の揺れに加え、これらすべての症状を一つの病気・病態で一元的に説明するとすれば、次の一つ、二つの病態が浮かび上がってきます。

 一つは「甲状腺機能亢進(こうしん)症(バセドー病)」というホルモン系の病気で、振戦(ただし手足に強く細かい揺れ)、動悸、下痢のいずれも生じます。

 もう一つは「脊髄(せきずい)小脳変性症」あるいは「シャイ・ドレーガー症候群」などという神経系の病気で、平衡障害も各種自律神経失調症も起こします。いずれにせよ詳細な問診と一般内科的・神経内科学的診察が必要です。

 最後に、質問の男性の自己診断は「自律神経失調症」とのことですが、これはまた難しい。何が難しいのかと言いますと、まずその定義・概念が難しいのです。つまり「自律神経失調症」とは狭い意味では、いろいろな自律神経(交感神経と副交感神経)症状を示し、かつ器質的な病変のない状態を言います。私もこの定義で診断しています。

 しかし、現実には精神神経症や心身症との区別が難しいことも多く、逆に精神神経症や心身症を、当たり障りのないように「自律神経失調症」と診断する医者もたくさんいます。が、それぞれの患者さんに適切な治療を考えるならば、きちんと区別するべきだと思います。

 「年のせい」と決めつけずに、まずはかかりつけ医の門をたたいてみてください。

徳島新聞2005年2月20日号より転載

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