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【質問】 人前で緊張、会話できない

 30歳の男性です。中学生のころから、人前に出ると話せなくなります。人と会うときにも極度に緊張します。重要な仕事が迫ると、特に気分が落ち込んで眠れなくもなります。もともと内向的な性格なんですが、最近、新聞で知った「社会不安障害(SAD)」ではないかと思うようになりました。SADはどんな病気でしょうか。治療法についても教えてください。



【答え】 社会不安障害(SAD) -薬物・心理療法併用で高い効果-

枝川クリニック 院長 枝川 浩二(徳島市大和町2丁目)

 人前で話をしたり、初対面の人と接したりするときの緊張は社会不安と呼ばれ、誰でも多かれ少なかれ経験があるものです。この社会不安の程度が強く、日常生活にも深刻な影響が生じてひどく悩む状態を社会不安障害といいます。日本では、従来「あがり症」「赤面恐怖」「対人恐怖」といった言葉で表されてきました。

 社会不安障害は、当初はまれな疾患と考えられていましたが、最近の調査では1割を超える人がこの病気になるともいわれており、これまで見逃されて治療されなかった重大な障害であると考えられるようになってきました。

 社会不安障害の典型的な症状は、人に注目されるかもしれない状況に対して、恥ずかしい思いをするのではないかという強い不安や恐怖を感じることで、赤面、発汗、動悸(どうき)、手足や声の震え、胃腸の不快感や下痢などのさまざまな身体症状が表れます。このような耐え難い苦痛を味わうため、そうした状況を避けようとして毎日の生活や仕事に支障が生じるのです。

 はっきりと原因が解明されたわけではありませんが、脳の神経細胞間の情報伝達にかかわっている「セロトニン」という物質の働きに異常があるのではないかという説があります。また、恐怖の反応に深く関与している大脳の「扁桃(へんとう)体」が過敏に反応しているという説もあります。

 治療は心理療法と薬物療法があります。心理療法では、「認知行動療法」の効果が認められています。認知行動療法は、患者さんの認知(ものの見方)を修正し、恐怖のために避けていた行動や状況を少しずつ練習して不安をコントロールするというものです。

 薬物療法では、抗うつ剤である「選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)」の有効性が認められています。「SSRI」は安全性が高い半面、効果が出るまでに数週間ほどかかります。このため、不安・緊張感を和らげる「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」や、動悸、震えなどの身体症状に効果のある「βブロッカー」を併用して効果を補い合います。薬物療法と心理療法の併用で、より良い効果が期待できます。

 社会不安障害は、強い緊張やストレスからうつ病やその他の精神疾患を合併することが多いといわれています。この病気を持つ人は、不安や緊張を自分の性格が内気で弱いせいだと考えて、医療機関を受診することが少ないようです。精神科や心療内科を受診することに対しては、まだまだ敷居が高いようですが、治療が可能な病気であることを理解して、「気軽に相談する」という気持ちで専門医を受診されてはどうでしょうか。

徳島新聞2005年2月6日号より転載

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