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【質問】 右肩が痛く腕まで広がる

 51歳の女性です。今年の1月から右肩が痛くなり、2カ所の整形外科病院で診てもらいました。レントゲンも撮りましたが、骨には異常はないといわれ、いずれの病院でも「五十肩」だろうと診断されました。一方の病院では、炎症を抑える注射をしたのですが、痛みは同じです。もう一方では、リハビリに通うように言われ20日くらい通ったのですが、やめてしまいました。5月くらいから痛みがひどくなり、今は腕まで痛みが広がり、憂うつな毎日を送っています。医師は、必ず治る病気なので、気長にいきなさいというのですが、このままにしておいていいのでしょうか。



【答え】 五十肩と肩関節周囲炎 -初期は薬物療法など有効-

沖の洲病院 整形外科部長 木下 勇(徳島市城東町1丁目)

 話から推測すると、やはり「五十肩」のようです。しかし、いまだに痛みが強いようですので、ほかの要因も加わっているのかもしれません。文面では痛みの性質、関節の動き、これまでの治療内容の詳細(注射の部位、回数など)が分かりません。一般的なことを述べますので参考にしてください。

 五十肩は、四十肩ともいわれ、40歳以上、特に50歳以上の方に起こり、その定義は「明らかな原因が証明しにくい初老期の肩関節の痛みと腕の動かせる範囲が制限される(関節拘縮)疾患」とされ、肩関節周囲炎という疾患群に含められています。

 発病は、明らかな誘因がないか、何かの弾みで肩関節部に痛みが起こり、上腕や肩甲骨の後ろの方にも感じ、腕を外に回したり、挙げるのがつらく、また夜中に痛みで目が覚めることもあります。やがて、痛みは和らいできますが、関節拘縮のため、腕を水平以上に挙げたり、腰の後ろへ手を回したりするのが困難となってきます。

 このような症状は、五十肩以外の肩の疾患でも起こります。腱板(けんばん)(肩の腱は広くて板状なので腱板と呼ばれる)の部分的断裂、石灰沈着性腱板炎、上腕二頭筋腱炎、肩関節周囲の滑液包炎(かつえきほうえん)などです。これらを含めて広義の「五十肩」ないし「肩関節周囲炎」と呼んでいます。

 五十肩では、特別なエックス線所見はありませんが、上腕骨と腱板の接合部にわずかな変化や、骨の萎縮(いしゅく)がみられたりします。

 鑑別すべき疾患は、まず変形性肩関節症、リウマチ肩などですが、特徴的なエックス線所見や病状の経過から診断は容易です。頚部(けいぶ)ならびにその周辺からの疾患(頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、頚肩腕症候群など)では、肩だけでなく、頚部の症状、腕や手の神経症状(しびれや放散痛)を伴うことが多く、これらとの鑑別も比較的容易です。

 治療法は、初期には痛みを除くのが第一で、薬物療法(消炎鎮痛剤)とともに局所注射(局所麻酔剤を添加したステロイド剤)が行われ、神経ブロックも有効です。痛みが強い場合は、三角きんで安静を図るのもよく、この時期には運動療法は行いません。

 関節拘縮が残った慢性期には、リハビリ、すなわち理学療法(温熱療法、運動療法)で動かせる範囲を回復させますが、やはり痛みのコントロールが大切で、ヒアルロン酸製剤の関節内注射も施します。

 これらの治療でも効果がなく、痛みが頑固な場合は、まず腱板断裂の合併が疑われます。中年期以後では腱板に変性があり、特に肩の骨(肩峰(けんぽう))と上腕骨頭に挟まれている棘上筋(きょくじょうきん)の腱板は、傷つきやすい状態にあり、痛みの主たる原因であることがあります。

 診断には、診察所見、エックス線検査のほかに、MRI検査、関節造影が有用です。腱板断裂が痛みの原因だと分かれば、手術療法(腱板修復術、靱帯(じんたい)や骨の部分切除術)も選択肢になります。

 なお肩関節は、運動範囲が最も大きい関節です。このことが弱点となり、五十肩や肩関節周囲炎以外のさまざまな疾患を起こすこともあります。

徳島新聞2004年8月15日号より転載

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