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【質問】 チョコや酢で顔がほてる

 24歳の女性です。チョコレートを食べると、5秒後くらいに、みけんに血の気が上って、ほっぺたとみけんが日焼けしたように真っ赤になってしまいます。酢が入ったものを食べても、1分後くらいに同じように熱くなります。のぼせたときのように、頭がぼうっとなり、呼吸も少し速くなります。お酒に弱い人が、真っ赤になって、ふわふわするような感じだと思います。チョコレート菓子なら何でもなり、ココアでもなります。体に合わないのでしょうか。とても好きな食べ物ですが、今後控えたほうがいいのでしょうか。



【答え】 耳介側頭神経症候群 -アレルギー専門医で受診を-

徳島大学病院 皮膚科 滝脇 弘嗣

 質問の要点は「チョコレートや酢を食べると即座にほおとみけんの辺りが真っ赤になって熱くなる」ということですね。症状が片側、それとも両側に起こるのか、その部分に汗もかくのか、症状がいつ始まったのか、耳下腺の手術を受けていないか、などの情報が欲しいところですが、訴えられた症状からは、食物アレルギーよりは「耳介側頭神経症候群」(フライ症候群)という疾患あるいは状態を疑います。

 この症候群の典型例は「耳下腺の腫瘍(しゅよう)や外傷などで手術を受けて何カ月かしてから、食事をするとすぐに、その側のほお、耳前部、こめかみの部分だけが赤くなって熱くなり、汗が出てくる」という症状を訴えます。

 単にかむ動作だけでは症状は表れません。口に含むと、だ液があふれてきそうな食べ物、例えばチョコレートやココア、かんきつ類などの酸っぱい食べ物で、発作がより誘発されやすくなります。

 手術はしていなくても、耳下腺の炎症、顔面下部の帯状疱疹(たいじょうほうしん)(ヘルペス)、打撲(だぼく)などに続発するか、思い当たる誘因もなく両側に生じる例もあります。質問には「みけんに血が上る」と書かれていますが、もしほおと連続した「こめかみ」の部位が赤くなるのであれば、この症候群の可能性が強くなります。

 耳介側頭神経症候群は、成人ばかりでなく、固形物を食べ始めた乳児にも生じ(発汗は伴わない場合が多い)、多くは鉗子(かんし)分娩(ぶんべん)の影響と考えられていますが、自然な分娩で両側に生じるような場合は、先天的な神経の異常を考える学者もいます。

 この症状の原因は、完全には解明されておりません。しかし「手術あるいは何らかの原因により、耳下腺を刺激してつばを分泌させる神経(耳介側頭神経)が損傷し、この神経が再生する過程で、ほおからこめかみに分布する皮膚の血管と汗の分泌腺に迷い込み、これらを支配してしまう」という説明が一般的です。つまり、神経を介してつばを分泌させるはずの味覚刺激(チョコレートや酢)が、間違って血管を広げ、ほおを真っ赤にするというわけです。

 残念ながらお勧めできる治療はありませんが、ボツリヌス毒素を局所に注射する試験治療が試みられており、発汗が強い例に効果があるようです。ただし、わが国では医療保険の制限上、一般には行えません。

 耳介側頭神経症候群であれば、食物アレルギーのように重症化して、ショックに至ることはありません。多少の不快感を我慢すれば、好きな食べ物を禁止する必要もないわけです。

しかし、ナッツ入りのチョコレートや生野菜か果物を入れた酢の物を食べている最中に、皮膚が赤くなるだけでなく、口の中が違和感を伴って腫れぼったくなるというのであれば、食物アレルギー(口腔アレルギー症候群)を疑う必要があります。心配なら、皮膚科や耳鼻科、内科のアレルギー専門医を受診し、皮膚テストなどできちんと診断を受けられることをお勧めします。

徳島新聞2004年7月18日号より転載

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