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【質問】 激しい動悸と全身のしびれ

 36歳の女性です。3年前、勤務中に目まいに襲われ、激しい動悸(どうき)とともに全身がしびれてきました。病院では「過換気症候群」だといわれたのですが、その後も「気が遠くなる。胸苦しい」などの症状があり、セニランを2年ほど服用しました。だんだんと症状も改善し、薬を減量していき、現在は、薬をやめています。しかし、また3カ月前から夜中に目が覚めると「激しい動悸、息苦しさ、胸が痛い」といった症状が毎晩のように現れるようになり、ひどいときには、1日中胸苦しいなどの症状があります。ホルター心電図、胸部レントゲンを撮りましたが、これといった異常は認められませんでした。外出するのもおっくうになり、夜になるのがとても不安です。治療で治るのでしょうか。



【答え】 ストレス障害 -薬物と行動・認知療法を併用-

あいざとパティオクリニック 山下 剛利(徳島市蔵本町2丁目)

 最近、ストレスと関連した病気が増えつつあります。症状も多彩で、自律神経症状(頭痛、肩凝り、呼吸困難、動悸、発汗、目まい、不眠、食欲不振、吐き気、腹痛、下痢など)や、精神症状(不安、抑うつ、恐怖、衝動など)、さらには運動・知覚異常など、さまざまです。

 疾患に特徴的な症状もありますが、共通する症状も多く、鑑別の困難な場合も少なくありません。また、同一の人でも、病気の経過とともに症状が変化することがあります。例えば不安抑うつ状態に始まり、摂食障害や恐怖障害、さらにはパニック障害や解離性障害を示します。

 ストレスは、なぜ心の病気を起こすのでしょうか。人の脳は現実世界に適応する優れた能力を有していますが、優れた能力を発揮するには、人生のそれぞれの過程で、さまざまな矛盾(多くは対人関係でのトラブルあるいは葛藤(かっとう))を経験し乗り越えなければなりません。

 コンピューターと異なり、脳は矛盾をじっと抱えていることができますし、矛盾を解決すれば、適応能力は以前より強化されます。しかし、「自分の存在を脅かす矛盾」(ストレス状態とする)が持続すると、心は疲弊してきます。この段階では先に述べたような自律神経症状が出現しやすくなります。

 さらに進行すると、心の中の矛盾が健康な統合機能から解離し、しかも統合化に抵抗を示すようになります。こうなると、ますます心にはゆとりがなくなり、ささいなことで心の軸が大きく揺れ動き、自己崩壊の危機を意識するようにもなります。これがパニックを起こす心の中の変化ではないかと思われます。

 さて、相談者の症状および経過から判断すると、病名としてはパニック障害が最も疑われます。パニック障害は、反復性の重篤な不安、つまりパニック発作を示し、動悸、胸痛、窒息感、目まい、非現実感といった症状や「死ぬのでは?」「自制心を失うのでは?」「自分が崩れるのでは?」といった自己崩壊の恐怖を伴うことがほとんどです。個々の発作は数分程度ですが、予期不安が強く、生活範囲はだんだんと制限されるようになります。

 治療についてですが、薬物療法では、抗不安薬や抗うつ薬が多用されます。薬物以外では、行動療法あるいは認知(行動)療法が高い評価を受けています。そして、薬物療法と行動療法ないし認知行動療法を併用するのが、より確実な方法とされています。しかし、中には、これらの治療でうまくいかない場合もあります。例えば、カウンセリングなどによって、心の葛藤を解きほぐそうとすると、逆にパニック発作が頻発するようになります。

 また、行動療法によって、不安・恐怖対象から逃げないでそれにじっと耐えようとすれば、大変な苦痛を伴うため、治療の継続が困難になるといったことがあります。そこで、統合機能を活性化するような、より専門的な工夫が必要となることがあります。

 いずれにしても、こうしたストレスによる心の病気は、「治せる病気」ですので、早期治療を心掛けてほしいと思います。

徳島新聞2004年7月11日号より転載

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