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【質問】 一瞬、記憶がなくなる

 56歳の夫のことで相談します。3カ月ほど前から、ぼうっとしている瞬間が目立つようになり、心配しています。話し掛けても1~2分間、返事や反応がなく、その間のことを覚えていないようです。昨年まではそんなことはありませんでした。4月に総合病院でCTとMRIの検査をしましたが異常はないとのことでした。先月は、車を運転しているときに、意識がなくなったらしく、危うく大けがをするところでした。そのときも、別の病院の脳外科と内科で検査しましたが、いずれも異常なしでした。老人性痴ほうが始まるには、若すぎると思います。いったい何科の病院を受診したらいいのでしょうか。治療によって症状は治るのでしょうか。



【答え】 障害を伴った発作 -脳神経専門の外来受診を-

手束病院 脳神経外科 曽我 哲朗(名西郡石井町石井)

 相談の文面からだけでは断定できませんが、ご主人に起こった「1~2分間、返事や反応がなく、その間の記憶がない」状態と、車を運転中に「意識を失ったらしく、危うく大けがをするところだった」という状態は、同じ症状だったと考えた方が自然だと思います。また、ご主人の普段の行動には何ら問題がなかったと仮定すると、今回の症状は「記憶障害を伴った発作」だった可能性があります。

 つまり、思考能力が低下して無意識に行動しているため、記憶が途切れたと考えられ、脳の高次機能中枢(前頭葉)や記憶中枢(海馬)の一時的な障害が起きていたと推測されます。

 記憶障害を起こす疾患には、脳疾患のほかに中毒(薬剤、アルコール、吸入)、代謝性疾患(肝不全、腎不全、糖尿病、甲状腺疾患)、感染症(敗血症、重症肺炎)や精神神経疾患(心因性ストレス、ヒステリー)などが挙げられます。今回のように、内科での診察や検査およびCTやMRI検査で異常所見が認められないケースは、まれだと思われます。

 では、CTやMRIの検査で異常を認められないにもかかわらず、記憶障害を伴った発作を生じる疾患には、どのようなものがあるでしょうか。

 今回のご主人に起こりそうな疾患を考えてみると<1>アルツハイマー病の初期段階と考えられている軽度認知機能障害<2>一過性全健忘<3>睡眠時無呼吸症候群<4>精神運動発作-などが候補として挙がります。

 軽度認知機能障害が始まると、意欲や自発性が低下し、判断能力の低下や物忘れが目立ってきますが、症状には変動があり、一見正常に見えることもあります。動脈硬化をさらに悪化させる要素(喫煙、飲酒、肥満、運動不足、不眠、ストレスなど)が多い方ほど、50代でも心配になってくるので、脳ドックを実施している総合病院などを受診し、簡単な知能検査を受けることをお勧めします。

 一過性全健忘発作は、60歳前後に多く、突然何をしているのか判断できなくなり、見当識障害が起こります。発作は多くの場合、12時間以内で治まりますが、発作中の記憶は全くありません。病後の治癒の経過は一般的に良いといわれていますが、脳虚血発作の場合もあり、脳神経の専門医を受診された方がよいでしょう。

 また、いびきが大きい方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。睡眠時に10秒以上の無呼吸が30回以上あると低酸素脳症に陥るといわれています。睡眠時無呼吸症候群は、日中も眠気があり、交通事故の原因として最近注目されています。肥満、就寝前の飲酒や睡眠薬内服、過労なども問題であり、耳鼻咽喉(いんこう)科で専門的な検査を受ける必要があります。

 精神運動発作は、側頭葉てんかんに見られ、全身けいれんや転倒などはありませんが、無意識のうちに行動したり、無目的な運動を繰り返したりする発作であり、発作中の記憶はありません。脳波検査で診断できることがあり、てんかん外来の受診をお勧めします。

 最後に、治療次第で治るのかどうかとの質問ですが、診断が的確であれば、おのずと解決方法が見えてくるはずですので、希望を捨てずに検査を進めていただきたいと思います。

徳島新聞2004年6月27日号より転載

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