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【質問】 足が激しい痛みに襲われる

 50代半ばの女性です。昨年6月の初めに右足の激しい痛みに襲われました。静脈血栓と分かり即入院しました。薬と注射で腫れも痛みも治まり、1カ月足らずで退院したのですが、2カ月後に今度は左足が痛み再入院しました。呼吸困難で安静にしなければならなかったときもありましたが、どうにか退院しました。今は週1回の通院とワーファリン(抗凝血剤)をのんでいますが、また症状が起こったらと思うと不安で眠れません。いったいどのような病気なのか、予防や治療法についても教えてください。



【答え】 深部静脈血栓症 -薬物療法で血栓を溶かす-

徳島大学医学部付属病院 心臓血管外科教授 北川 哲也
     
 静脈の病気は主に静脈血栓と静脈弁の障害によって起こります。いずれも下肢に起こりやすく、それぞれ深部静脈血栓症、下肢静脈瘤(りゅう)と呼ばれています。今回はご質問のあった、静脈血栓症について述べます。

 下肢の静脈のうち、筋肉内や骨の近くにある深部静脈が詰まってしまうと血液の流れが悪くなり、脚にむくみが生じます。女性が男性より2~3倍多く、加齢は危険因子の一つで、65歳以上に多いとされます。

 原因不明の場合が多いのですが、予防の観点から、以下のような特別な状況下で起こりやすいことを知っておかねばなりません。

 最も大きな危険因子は、じっとして動かない状態を続けることです。エコノミークラス症候群が話題になっていますが、狭い座席に座ったままの長旅もこのたぐいです。妊娠で大きくなった子宮が骨盤内の静脈を圧迫したり、出産、手術に伴い血が固まりやすくなったりした状態も関与します。

 あなたのように繰り返し起こったり、若い年齢で発症したり、遺伝的に起こる場合は、体質的に血液が凝固しやすいのが原因と考えられますので、専門科を受診して精密検査を受けて下さい。

 原因不明の場合、静脈血栓の多くは下腿に始まります。それより上部の血栓は普通下腿の血栓が原因となって起こります。妊娠や出産、手術にかかわるものは上部の静脈から生じます。

 血栓ができると通常、閉塞(そく)部から末梢(しょう)のむくみ、不快感、局所の鈍痛・圧痛などが突発的に生じます。本来痛みはありませんが、炎症によって起こる血栓では痛みを伴います。むくみの程度は血栓の量と閉塞部分、立っているか寝ているかによって異なります。

 皮膚はうっ血に伴いチアノーゼを呈するのが普通ですが、炎症などのために潮紅をみることもあります。炎症を伴う場合、頻脈、発熱の全身症状を伴うことがあります。

 診断は、このような症状により比較的容易ですが、確定診断にはさらに超音波検査などが必要です。

 治療の原則は、早期に診断して、薬で血栓を完全に除くことです。不完全なままだと慢性的静脈機能不全を起こす恐れがあります。通常は入院し、血栓を溶かす薬物療法、血栓の新生・進展の抑制を目的とする抗凝固療法を行います。

 血栓が完全に溶けてしまうと、まったく元どおりのむくみのない状態になりますが、再発予防の意味で退院後も半年か1年ほど抗凝固療法を続けることをお勧めします。不幸にして血流が完全に戻らない場合、むくみが続く場合があるので、退院直後は、静脈瘤の予防や弾力ストッキングの装用が望ましいでしょう。

 最も怖い合併症は深部静脈の血栓がはがれ落ち、下大静脈、心臓を経由して、肺動脈に詰まって、胸痛や呼吸困難、血圧低下などを起こす肺塞栓症になることです。

 エコノミー症候群は、深部静脈血栓症から肺塞栓症を併発した状態をいいます。あなたの場合、呼吸困難が肺塞栓症を併発したためかどうかは判断できませんが、肺塞栓症の有無や現在の心・肺機能を調べておく方がいいでしょう。また、肺塞栓症を再発する方には、遊離血栓を下大静脈内で捕捉する下大静脈フィルター留置手術を行う場合もあります。

 要するに最も重要なのは深部静脈血栓症が起こらないように予防することで、前述したような危険因子を持つ患者さんには予防的抗凝固療法を行うことも必要かもしれません。

徳島新聞2002年3月10日号より転載

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