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【質問】 子供の被曝が気になる

 3歳の息子のことで相談します。一昨年、先天性の腎臓の病気が見つかり、昨年手術しました。無事終わったのですが、その際に何度もエックス線検査をしたことが気になっています。医学書にはがんを誘発するとか、白血病になるとか不安な内容が書いてあります。息子は腎臓の病気の検査などで、一昨年の暮れから今までに10回ぐらいエックス線を浴びています。腹部や頭部などが主で、腹部CTも撮りました。将来、子供をつくれなくならないか心配です。



【答え】 エックス線検査の体への影響 -日常の検査では心配ない-

徳島市民病院 放射線科診療部長 仁木 孝明

 体の不調などで病院を訪れた多くの方は、何らかのエックス線検査を受けられたことと思います。病気の診断には、その検査が必要不可欠だったからです。しかし、やっかいな病気や手術を前提とした検査の場合には、種々のエックス線検査を繰り返し行うことがしばしばあります。こうなりますとエックス線被曝(ひばく)による不利益を心配される方も出てきます。無理からぬことと思います。

 そこで、一般的にエックス線検査でどの程度の被曝を受けるのか、被曝の合計が発癌(がん)や身体的影響にどの程度関与するのかなどについて説明させていただきます。

 エックス線被曝による身体的影響は、エックス線が照射された部位のみ起こります。裏を返せば、エックス線が当たらなかった部分の影響は心配しなくてもよいことになります。たとえば妊婦さんが、頭や胸のエックス線検査を受けたとしても、胎児への影響は無視できるわけです。

 さて、医療被曝では、被曝線量の単位として吸収線量(mGy=ミリグレイ)が用いられます。放射線の照射によって発生する癌の代表である白血病を例に取りますと、血液を造っている赤色骨髄に200mGy以上の被曝を受けますと、白血病の発生率が自然発生率を超える可能性が出てくるとされています。

 主なエックス線診断による赤色骨髄線量(mGy)は、胸部写真(0.05)、腹部(0.9)、全身CT(4.0)、腎盂(じんう)尿管造影(0.9)、消化管造影(8.0~16.0)などと計測されています。

 これらの線量から考えますと、よほど重複した検査がなされない限り、200mGyを超える被曝を受けることはありません。日常のエックス線検査では白血病の心配はいらないという結論になります。小児の場合、放射線感受性は高い(成人の4~5倍)といわれますが、文面から察するに、お子さまが40~50mGyを超える線量を受けたとは考えられませんので、安心していただいて結構です。

 次に不妊の心配ですが、先程と同じように生殖腺(せいしょくせん)に受けた線量が問題となります。主なエックス線診断による男性生殖腺の被曝線量(mGy)は、腹部(0.16)、骨盤(0.57)、股関節(3.68)、腎盂尿管造影(0.49)、消化管造影(0.004~0.58)などと計測されています。

 男性が一時的不妊になる可能性のある最低の線量は、150mGyとされています。従ってお子さまが今回の被曝で永久不妊(一生子供をつくれない状態で、一時的不妊の数十倍の被曝によるとされる)になることはありません。

 そのほか胎児被曝、遺伝的影響などを心配される方もあると思いますが、日常のエックス線検査での被曝では、いずれも被曝による影響はないとされています。むしろ被曝を恐れて必要なエックス線検査を受けない方が、ずっとデメリットが大きいと考えるべきでしょう。

徳島新聞2002年1月20日号より転載

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