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【質問】 産後、めまいや吐き気続く

 30歳になる娘のことで相談します。4年半前に第一子を出産してから頭痛(後頭部がザワザワした感じ)が始まり、めまいやひどいふらつき、吐き気、どうき、目がチカチカする、不安感などの症状が出て悩んでいます。MRI検査をしたり心療内科、耳鼻科などを受診したり、漢方薬やお灸(きゅう)をしてみたりしましたが治りません。そんな状態で昨年11月に第二子を出産しました。出産は無事終わったのですが、相変わらず調子が悪いままです。何かよい治療法はありませんか。



【答え】 出産後甲状腺機能異常症 -血液検査で手軽に診断

徳島大学医学部附属病院 周産母子センター助手 前田 和寿

 出産後の不定愁訴でお困りの様子ですね。あなたの症状を読ませていただきましたが、この症状だけから特定の疾患を診断するのは困難かもしれません。一般的に考えられるのは、脳血管障害、精神神経疾患、内耳の異常などです。しかし、MRI検査で異常がないようなので、脳腫瘍(しゅよう)などは否定できると思います。

 出産後に出現するめまい、肩凝り、頭痛、不眠、どうきなどの症状は、これまで、“産後の肥立ちが悪い”“育児ノイローゼ”“血の道症”といわれてきました。しかし20年ほど前に、こうした症状を持つ人の中には出産後甲状腺機能異常症が含まれていることが分かりました。

 出産後甲状腺機能異常症とは、出産を契機として起こる種々の甲状腺機能異常の総称です。産後の育児疲れと症状がオーバーラップする場合が多い、症状の出現時期が幅広いため出産との因果関係が付けにくく、大多数が一過性-などのために、従来は病気とは認識されませんでした。

 この病気は大阪大学で発見され、その後、米国、スウェーデン、カナダ、英国などでも、存在が確認されました。この病気の頻度は結構高く、20~30回の出産に一度起きるといわれています。

 出産後甲状腺機能異常症が比較的よく認められるのは、出産後1~3カ月の早期に破壊性甲状腺中毒症になり、引き続き一過性甲状腺機能低下症、または永続性甲状腺機能低下症を示すケースです。破壊性甲状腺中毒症とは、バセドー病とは異なり、甲状腺に何らかの炎症が起こり、血液の中に甲状腺ホルモンが余分に出て、症状を起こします。この病気は一過性であるため放置していてもすぐに症状は消えますが、まれに永続性甲状腺機能低下症を来します。症状は、甲状腺中毒症なら疲労感やどうきなど、機能低下症なら肩凝り、疲労感、食欲低下、便秘などです。

 これらの病気の検査方法は極めて簡単で、血液検査で診断は可能です。血液中の甲状腺ホルモン、脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン、抗甲状腺抗体を測定します。検査で異常があっても、症状が軽ければ治療の対象にはなりませんが、症状が強く異常があれば治療が必要になります。機能低下症であれば甲状腺ホルモンの補充療法を、破壊性甲状腺中毒症の場合はバセドー病に用いる抗甲状腺薬剤は使わず、頻脈などを防止する薬剤を使用して症状の軽快を図ります。

 この検査はどこの病院でもできると思いますので、一度、近くの内科で診察を受けてみることをお勧めします。

徳島新聞2001年3月11日号より転載

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