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【質問】 脱腸は完全に治らない?

 28歳の息子のことで相談します。息子は16歳のとき、左のヘルニア(脱腸)の手術をしましたが、術後すっきりせず、しこりがある感じでした。2年前から、今度は右の方にも出るようになりました。本人は何回手術をしても同じだといい、痛いのを我慢しているようです。脱腸は癖になると聞きましたが、完全に治らないのでしょうか。



【答え】 そけいヘルニア -術後の症状・再発少なく-

徳島市民病院 外科主任医長 惣中 康秀

 お尋ねのヘルニア(脱腸)は、そけいヘルニアと思われます。

 この病気は、走ったり、重い物を持ち上げたり、赤ちゃんの場合は泣いたりしておなかに力を入れたとき、そけい部(両足の付け根の部分)が膨れてくるものです。

 どうして、こうなるのでしょうか。両側の下腹部の腹壁に、そけい管というトンネル状のすき間(赤ちゃんが体内にいる時期に、男の子の場合、こうがんがおなかの中から陰のう内に下りてきた道)があります。おなかに力を入れたとき、そけい管を通って腹膜が飛び出し、この腹膜の袋の中に腹水や腸管などが出てくると、ヘルニアになります〈図参照〉。

 おなかの壁は、筋膜と筋肉によって支えられています。このためおなかから圧力が加わると、最も弱いそけい管の部分が膨れてきやすいわけです。

 ヘルニアで膨れた部分を圧迫したり、横になっておかなの力を抜くようにすると、時にグルッとした感触とともに、腸管などがおなかの中に戻り、平らになります。どのようにしても元に戻らない場合、腸閉そくや腸管の血流障害を起こし、緊急手術が必要となることがありますので、すぐに外科で診察を受けてください。

 治療方法は、圧迫などでは腹膜の袋がなくならないので治りません。悪性の病気ではありませんので、「かんとん」(圧迫しても元に戻らなくなった状態)しない限り、経過を見ても構いませんが、徐々に出口が広がり、膨れ方が大きくなってきます。こうなると手術が必要です。

 子供では、腹壁から飛び出した腹膜の袋を処理するだけでよいのですが、成人の場合は、加えて腹壁の出口をふさいでやる必要があります。従来、出口の周りの筋膜を縫い寄せてふさいでいましたが、最近は合成繊維の布(メッシュ)を使って出口をふさぎ、補強する方法が主流になってきました。従来の方法に比べ、突っ張った感じが少なく、手術後の症状が軽いといわれています。

 あなたの質問では、手術後もシコリがあるそうですが、これはヘルニアが治っていないのではなく、手術後の皮膚や筋膜部分の「瘢痕(はんこん)」(傷口や縫合糸の部分に肉が巻いて硬くなったもの)と思われます。手術の後、初めは固く痛みがありますが、徐々に柔らかくなり、気にならなくなります。

 また、2年前から反対側に出るようになったそうですが、両側にヘルニアが出現する確率は日本人の場合、年齢により5~13%といわれています。反対側の手術をしたから出たのではなく、もともとそけい管内に腹膜の袋があったためと思われます。

 ヘルニアは癖になると聞かれたようですが、これは反対側にヘルニアが出たり、ヘルニアが再発したりすることを指しているものと思われます。

 報告によると、手術をしても再発する確率は0.2~10%あります。再発は若い人には少なく、老人に多く見られます。これは出口をふさぐための筋膜が弱いためで、これを補うためにも、先に述べたようなメッシュを使う手術方法が多くなり、術後の症状や再発も少なくなったように思われます。

 最近は手術方法もいろいろあり、日帰り手術も可能です。一度、病院の外科で相談されることをお勧めします。

徳島新聞2000年9月17日号より転載

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