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【質問】 胃の切除後 口の中が酸っぱい

 70代の男性です。12年前に胃がんになり、胃の3分の2を切除しました。以後、転移もなく安心しています。ただ気がかりなのは、術後3年たったころから、就寝時に2~3回、口の中が酸っぱくなり、目が覚めることです。その度にうがいをして床に戻ります。主治医は「胃の切除で、胃液が逆流するためだ」と言います。最近では、酸っぱいタンも出るようになりました。こんな状態を改善できないものでしょうか。



【答え】 逆流性食道炎 -まず食生活の改善を-

徳島市民病院 院長 森本 重利

 胃は食道と十二指腸の間にある袋状の臓器です。食堂に続く胃の上部を噴門部と呼びます。ここには噴門括約筋があり、胃の内容物が食道へ逆流するのを防ぐ弁の役割をしています。胃の出口は幽門輪と呼び、十二指腸と隔てられています。ここにも括約筋があって、内容物の胃から十二指腸への排出を調整する役割を担っています。

 胃に、がんやその他の腫瘍(しゅよう)ができると、外科的に胃の切除が行われます。最近では早期発見、早期治療によって、胃がん手術の成績は目覚ましく向上しています。手術でがんなどが治るようになった半面、胃を切ったことによって起こる「胃切除後症候群」に悩まされる患者さんも多いようです。

 胃切除後症候群とは、胃を切った後、しばらく時間がたってから起こる障害の総称で、この中には小胃症状や逆流性食道炎、ダンピング症候群など多くの合併障害が含まれています。このような障害をできる限り少なくする手術法の検討がいまなお続けられています。

 さて、ご質問を見る限り、あなたの症状は、胃液が食道へ逆流したことによる逆流性食道炎だと思われます。この症状は、胃を切っていなくても起こりますが、ここでは胃切除後の逆流性食道炎について述べます。

 胃の手術では、噴門部やその周辺の組織にメスを入れることによって、括約筋の機能が低下して、胃の内容物が食道へ逆流しやすくなります。さらに幽門輪が切除されると、胃の中に胆汁、膵(すい)液、十二指腸液などが逆流します。これらが口までさかのぼってくると、酸っぱくなったり、苦くなったりするわけです。

 その他の主な症状に、胸やけ、つかえ感、胸骨後部(食道付近)の痛みといったものがあります。

 治療の第一歩は、症状を悪化させないよう生活改善に努めることです。食べ過ぎや多量のアルコールを避け、コーヒーや脂肪食を慎むなど、食生活を改善することが必要です。さらに上体を少し高くしてお休みになるとか、ベルトやコルセットで腹部を締め過ぎないように心掛けてください。

 逆流性食道炎の治療の主流は薬物療法です。胃を切除している場合、通常、残った胃の胃酸は高くありませんが、それでも高い人には、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害剤または、H2ブロッカーが有効です。胃の全部を切除している場合は、胃酸がなく、アルカリ優位型になりますので、タンパク分解酵素阻害剤などが有効です。その他、補助療法としてさまざまな薬剤が使われますが、いずれにしても主治医によく相談して最適の治療法を選ばれるのがよいと思います。

 酸っぱいタンが出るようになったとのことですが、口の中に逆流した内容物が気道内に入って、慢性的な気管支炎を起こしている疑いがあります。この症状にも、前述の逆流対策が有効ですが、念のため、呼吸器専門医を受診し、ほかの肺の病気がないことを確かめてください。

徳島新聞2000年5月21日号より転載

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