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【質問】 手術による妊娠への影響は

 23歳の女性です。頭痛や吐きけ、めまい、耳鳴り、手足のしびれ、肩凝りなどの症状があり受診しました。脳下垂体が少し大きく、成長ホルモンの数値が高いので手術をすると言われました。上唇から鼻腔(びくう)を通してする手術だそうです。別の病院では「脳下垂体に腫瘍(しゅよう)がある。手術した方がいい。手術は頭を切る」と言い、鼻腔を通す手術は他の部分を傷つける恐れがあり、子供が産めなくなるとのこと。さらに別の病院では「脳下垂体は大きいが、腫瘍は表面に出ていない」と言われました。医師によってばらばらで不安です。腫瘍ができたら、どんな症状が出るのですか。成長ホルモンの数値が変動していますが、妊娠したら赤ちゃんに影響はないのですか。鼻腔を通す手術では妊娠しないのですか。また入院期間はどれくらいですか。



【答え】 脳下垂体の腫瘍 -経鼻手術が比較的安全-

健康保険鳴門病院 脳神経外科部長 津田 敏雄

 まず一般的な下垂体腫瘍についてお話ししておきます。下垂体とは頭の真ん中にある指先大の組織で、主にいろいろなホルモンを作り出しているところです。腫瘍は大きく分けて、ホルモンをつくる組織が腫瘍化したものと、ホルモンをつくらない部分が腫瘍化したものに分けられます。

 前者は、つくられるホルモンによって症状はまちまちです。成長ホルモンがつくられる所が腫瘍化すれば、顔や手が大きくなってくる末端肥大症というホルモンの過剰分泌による症状が現れてきます。さらに腫瘍が大きくなれば、近くの視神経を圧迫し、視野が狭くなったり、視力が落ちるなどの目の症状が出てきます。

 成長ホルモンの正常値は、1ミリリットル当たり5ナノグラム(ナノは10億分の1)以下です。あなたの成長ホルモンの数値によって、こうした末端肥大症や糖尿病の合併、そして腫瘍の大きさにより、目の症状の現れ方が違ってきます。そのほか、過剰分泌されたホルモンにより、さまざまな症状が出てきます。

 治療法としては、手術が一般的です。質問にあるように、頭を開ける開頭法と、鼻から腫瘍へ到達させて腫瘍を取り除く経鼻的手術の2通りの方法があります〈図参照〉。

 これは腫瘍の大きさや延びていく方向によって決まります。あなたの腫瘍の大きさは分かりませんが、かなりの大きさでない限り、鼻からの手術が通常採られる方法です。それぞれの方法は腫瘍の状態によって選択されますが、鼻からの手術の方が、ご心配されている術後のホルモンの影響は少なく、安全性も高いため、特に未婚の女性の場合、まず採るべき方法と思います。

 術後の妊娠の可能性に関しても、腫瘍のサイズに左右されますが、小さなものであれば、鼻からの手術で十分可能と考えられます。治療が十分であれば、妊娠や生まれてくる赤ちゃんへの影響も心配する必要はないと思われます。通常、術後数日で歩行も許可され、入院期間も2週間程度です。

 最近、内分泌検査やMRI(核磁気共鳴診断装置)などにより詳しく検査できますので、成長ホルモンの数値や腫瘍の大きさを確実に診断できると思います。

 質問の文面からは、これらのデータが分かりませんが、成長ホルモン分泌性の下垂体腫瘍には手術がまず選ぶべき方法で、一般的には経鼻的手術が安全度が高く主流と思います。信頼できる主治医とよく相談して元気になってください。

徳島新聞2000年3月19日号より転載

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