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【質問】 だ液が少なく口が渇く

 68歳の主婦です。1年前から、だ液が少なくなり、口の中がカラカラに渇きます。受診したら、シェーグレン症候群という聞きなれない病気だということです。入れ歯の人は、次第とつば気がなくなるということを聞きましたが、私も上が入れ歯です。特に朝、歯磨きの後は、全くつば気がなく、人との会話も十分ほどでしゃべれなくなるほど口の中がカラカラになります。外出時には、あめを少し持っていて、しゃべれなくなるとあめを口の中に入れると、少しだ液が出てきます。どのように日常生活を送ったらいいでしょうか。



【答え】 シェーグレン症候群 -ガムや人工だ液で潤いを-

小川内科クリニック 院長 小川 紘一(徳島市北佐古二番町)

 口の中の渇きのある人は、高齢になるに従い多くなります。渇きが強くなると、食べ物をかみ砕くことも、飲み込むことも難しくなり、だ液腺(せん)で結石がつくられやすくなります。また、味覚やきゅう覚の能力が失われたりします。

 口腔(こうくう)乾燥の原因としては、主に「だ液腺委縮症」「シェーグレン症候群」、亜鉛欠乏や薬剤による「口腔乾燥症」が考えられます。そのほか、脱水症や口呼吸の可能性もあります。加齢によるだけでも、だ液腺の分泌腺は減少しますが、だ液腺には予備力があるため、臨床的に問題になることは少ないといわれています。

 だ液腺委縮症は、だ液を作る分泌腺が減少し、脂肪組織に置き換えられてしまいます。だ液腺には、炎症が起こっておらず、免疫血清学的な異常もありません。主に閉経期以降の女性にみられ、加齢、および女性ホルモンなどの内分泌系の関与が考えられます。

 口腔乾燥症を来す薬剤は、メジャートランキライザーと呼ばれる向精神薬や気分を楽にする抗うつ剤、腹痛などを軽くする鎮痙(ちんけい)剤、アレルギー反応を抑える抗ヒスタミン剤、胃かいようや十二指腸かいように使われる消化性かいよう剤の一部、高血圧の治療に使われる降圧剤の一部、狭心症などに使われる冠拡張剤など、多くの薬剤が挙げられます。

 薬剤による口腔乾燥症も60代に多く見られます。これは、加齢とともに、このような薬剤を服用する機会が多くなることと、基礎にだ液腺委縮症があり、それが薬剤の服用によってはっきり現れるという2つのことが考えられます。

 糖尿病でも、口が渇くために多くの水分を飲む症状があるのはよく知られています。糖尿病の人では、耳下腺からのだ液分泌が正常の3分の1にまで減少しているという報告があります。

 さて、質問のシェーグレン症候群についてですが、乾燥症候群と呼ばれ、主として目や口腔内の乾燥を来します。これらの症状のほかに耳下腺がはれたり、関節の痛み、皮下出血、薬物アレルギーを伴うこともあります。

 この症候群が系統的に、だ液腺や涙腺のような外分泌腺を侵す自己免疫疾患であることによります。ときに、他の自己免疫疾患を合併することにもよります。診断は、免疫血清学的検査やだ液腺造影、分泌される涙の量の減少、乾燥性角結膜炎の存在によってなされます。

 治療に関しては、だ液腺の炎症やはれの強い時期には、ステロイドや抗炎症剤が使われますが、口腔乾燥にはだ液腺の機能がまだ残っているようであれば、ビソルボンやパロチンなどの薬剤を服用したり、ビタミンC剤をトローチとして用いて、だ液の分泌を刺激します。

 さらに、口腔乾燥がひどい場合には、1日中、少しずつ液体を飲んだり、糖分のないチューインガムをかんだり、人工だ液を用いて口腔に潤いを与えたりします。また、他に病気があって、口腔乾燥症を来す薬剤を服用している場合には、担当医に相談することも必要です。

 だ液は、口腔に潤いを与えるだけでなく、殺菌作用もあるため、口腔の雑菌を減らし、清潔にする役割を持っています。だ液の分泌の減少に伴って虫歯になりやすくなるといわれているのもこのためです。あめ玉をなめることも、だ液の分泌を助けることになりますが、雑菌の繁殖や、口の渇きが糖尿病の症状の一つである可能性もあり、注意が必要かと考えます。

徳島新聞1999年10月31日号より転載

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