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【質問】 角膜移植を受けるべきか

 50歳の主婦です。若いころは視力が良かったのですが、年とともに徐々に見えにくくなって眼科を受診したら「遺伝的な角膜。角膜移植しか方法はない」と言われました。事実、私の母も角膜が悪く不自由な生活を送っています。25歳の息子にまで遺伝しているようで、病院で同じことを言われたそうです。角膜移植は拒絶反応もあるそうで心配です。今は乱視もあり、視力検査は0.1も見えにくいくらいですが、移植を受けた場合、視力はどのくらい回復するのでしょうか。自分のことも心配ですが、まだ若い息子の目のことが心配です。息子は視力が0.5くらいのようです。私は検査の結果、手術は受けられると言われています。



【答え】 角膜変性症 -高い視力改善の可能性-

徳島大学病院 眼科講師 江口 洋

 「若いころに視力が良かったが、年とともに徐々に見にくくなった」ことと、「角膜移植が必要と言われた」こと、血縁関係者に同様の病気が発症するなど遺伝的な背景があることから、相談者の病気は、角膜の混濁が少しずつ進行する角膜変性症と思われます〈図1参照〉。


 角膜変性症には幾つかのタイプがあり、中には近視矯正手術で使用するエキシマレーザーで、比較的簡単に治療できるものもありますが、視力改善に角膜移植が必要となることも少なくありません。

 角膜移植での視力回復に大きく影響する因子は、移植治療を受ける患者の元々の角膜の病気(原疾患)が何かということと、角膜以外の目の病気の有無です。原疾患によっては、拒絶反応の出現頻度が高いものがあります。

 また、角膜以外にも視力低下につながる目の病気があれば、角膜移植だけでは大幅な視力改善は期待できません。角膜以外の病気も、中には角膜移植の時に、同時に治療できるものもありますが、治療困難な場合もあります。しかし、角膜以外に目の病気がなく、拒絶反応の少ない原疾患であれば、移植後に1.0以上の視力が得られることも珍しくはありません。

 相談者は若いころはよく見えていて、現在まだ50歳なので、角膜の病気以外に目の病気がなければ、比較的良好な視力が得られる可能性が高いと考えられます。ただし、60代後半からは誰でも白内障が出てきます。相談者が数年以内に角膜移植を受けた場合、年齢の割に早く白内障を発症する可能性が高くなります。場合によっては、角膜移植の時に、同時に白内障手術をした方がいいでしょう。

 20代の子息の視力改善の可能性は高いと思われます。しかし、もし再発率の高い原疾患で、若くして移植を受ければ、当然長い人生の間に、再移植が必要になる可能性は高くなることも考慮しなければなりません。


 一概に角膜移植といっても、さまざまな手術方法が考案されており、その違いも手術成績に若干影響します。最も古くから行われてきた方法は「全層角膜移植術」です。手技は確立されており、成績もほぼ一定しています。方法は、患者の病的な角膜をメスで円形に切り取り、角膜に大きな穴を作成します。次に、ドナー(眼球提供者)のきれいな角膜をほぼ同じ大きさの円形に切り抜き、角膜の穴をふさぐように特殊なナイロン糸で縫い付けます〈図2参照〉。

 全層角膜移植術での拒絶反応の頻度は、10~15%です。その他の臓器移植、例えば腎臓移植などと比較すると、その頻度は低く、最も拒絶反応の少ない臓器移植といえます。

 全層角膜移植術以外には、表層角膜移植術や深層角膜移植術などがあります。いずれも手術手技はやや複雑ですが、拒絶反応の頻度は、全層角膜移植術よりもさらに少なく、角膜に穴を開けないので目にとっては優しい手術といえます。角膜裏面の細胞(角膜内皮細胞)の機能が正常であれば、これらの手術の適応になります。角膜変性症の中には、これらの手術で対応可能なものもありますので、その場合は、全層角膜移植ではなく、表層、あるいは深層角膜移植を選択すべきです。

 相談者やその家族は、原疾患が角膜変性症であるかどうか、またそうであればいかなるタイプの角膜変性症であるかを精密検査することを勧めます。正確な診断と現在の角膜の状態、年齢や生活様式などを総合的に判断し、各人に最も安全かつ再発率の少ない手術方法を探る必要があります。専門医による診察で、良い手術方法と、その時期を検討してください。

 どちらの手術もこの病気の治療法としてはほぼ確立された方法ですが、もちろん大きな手術なので種々の危険はあります。ただ、そのままでは良くなるとは考えにくく、待機による筋力の低下も危惧されます。主治医と相談し、早期に手術を受けることをお勧めします。

徳島新聞2006年2月26日号より転載

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