【質問】直線がゆがんで見える
80代の男性です。6年ほど前に白内障の手術を受けました。視力は回復したようですが、加齢黄斑変性の症状なのか、左右に伸びた直線を見ると右側だけがゆがんで見えます。治療をしてもらいましたが良くなりません。適切な治療法はないのでしょうか。
徳島逓信病院眼科 村尾史子 先生
【答え】病態に応じた治療選択を
加齢によって起こる目の病気には、さまざまなものがあります。白内障も加齢黄斑変性も加齢とともに進行する病気ですが、その経過や治療法は大きく異なります。
眼球をカメラに例えると、白内障はレンズの問題、加齢黄斑変性はフィルムの問題になります。
白内障の手術では、すりガラスのように濁ってしまった水晶体という目の中のレンズを、きれいな人工のレンズに取り換えます。網膜(フィルム)に異常がなければ、目の中に光が入りやすくなり視力の改善が期待できます。
しかし、網膜が傷んでいたらどうでしょう。カメラのレンズを新品に取り換えても、フィルムが傷んでいるときれいな写真は撮れません。同様に、白内障の手術をしても加齢黄斑変性など網膜の病気があると、見え方に異常が残る場合があります。
加齢黄斑変性は、見たいところが見えにくくなる病気です。加齢により黄斑部という網膜の中央部が傷むと、直線がゆがんで見えたり、中心が見えなくなったりします。新生血管という異常な血管が出血を起こすこともあります。近年、増加傾向にあり、成人の失明原因の第4位です。
厄介なことに、網膜は水晶体のように取り換えることができませんし、一度傷むと治療を行っても完全に元のように戻すことはできません。そのため早期発見、早期治療がとても大切です。
治療は<1>レーザー治療<2>光線力学療法(PDT)<3>抗血管新生療法-の三つが中心となります。
<1>は網膜の新生血管(異常な血管)に直接レーザーを照射します。<2>は新生血管に集積する特殊な薬剤を肘の血管から注射し、網膜に弱いレーザーを当てて異常な血管を選択的に閉塞させます。<3>は眼内に直接薬剤を注射し、新生血管を発生させる信号をブロックする効果の高い治療法です。ただ、薬の効果は1カ月から2カ月しか持続しません。
加齢黄斑変性は慢性進行性の疾患ですので、病気の活動性が高い場合は治療を継続して行う必要があります。それぞれの治療法に一長一短があるため、病態に応じて適切な治療法を選択することが大切です。
もし、相談者の方の黄斑部の網膜が既に傷んでしまっているとすると、ゆがんだ見え方を治療で軽減できる可能性はありますが、すっかり元通りにというのは難しいと思われます。しかし、加齢黄斑変性をこれ以上進行させないためには、経過観察と適切な時期における治療を継続されることが大切です。
網膜へのダメージを防ぐ方法として▽禁煙▽高カロリー食を避ける▽緑黄色野菜や背の青い魚をしっかり食べる▽ルテインや抗酸化ビタミンなどを含むサプリメントを利用する▽帽子やサングラスで紫外線から目を保護する-などの方法があります。日常生活の中でこれらのことに気を付けると、さらに良いでしょう。