【質問】飛蚊症 放置して大丈夫か
60代前半の女性です。8年ほど前から黒い糸くずのようなものが見える飛蚊(ひぶん)症の症状があり、先日眼科を受診したところ「硝子体閃輝(せんき)症」と診断されました。医師からは体質なので放っておいても構わないと言われましたが、自分で調べてみると硝子体にたまったコレステロールの結晶が融解して見えるということでした。30代のころからコレステロール値がずっと高いのですが、関係あるでしょうか? 放置しておいて良いのか不安です。対策を教えてください。
徳島大大学院眼科学分野 香留崇 先生
【答え】現段階で治療の必要なし
硝子体閃輝症に関して話す前に、飛蚊症について説明しておきましょう。眼球の中には、「硝子体」と呼ばれる卵白に似た透明な組織があります。成分の99%以上は水分ですが、わずかに線維が含まれています。
加齢に伴い、硝子体は眼球の後ろ側の接触部分から離れます。すると、硝子体内の線維が塊となり、眼球内でふわふわと浮いた状態になります。これを「後部硝子体剥離」といいます。この塊が影となって認識され、蚊が目の前を飛んでいるように見えますが、異常ではなく生理的変化です。ただし、まれに「網膜裂孔(れっこう)」や「網膜剥離」を伴っている可能性があるので注意が必要です。
硝子体剥離に関連する疾患は、一般的に二つに分類されます。一つは、眼科で診断されたという硝子体閃輝症です。目の外傷や炎症など重篤な疾患の後に発生し、多くの場合は視力が低下します。目に黄金色の小さな点状の混濁ができ、硝子体の中を自由に浮動して沈下します。
混濁の本体はコレステロールの結晶です。もともと視力が悪い人に発症する例が多いため、硝子体の混濁も、視力がさらに低下していることも自覚できません。手術することは少ないとされています。
もう一つが「星状(せいじょう)硝子体症」で、硝子体の中にカルシウムなどを成分とした小さな混濁が多数出現します。糖尿病などの持病がある60歳以上の方に多く、日常の診療でも比較的よく見掛ける疾患です。自覚症状や視力が下がることはほとんどありません。
この疾患では、眼球を動かすと、混濁は硝子体とともに動き、やがて元の位置に戻ります。人間ドックの際にも眼底写真がきれいに撮影できないことがあり、眼底の異常を見落とさない注意が必要です。混濁が強く、視力低下の原因となる場合には、硝子体を切除する手術を行うこともあります。
これらの疾患は定義や名称にあいまいなところがあり、眼科医でも診断が難しいことがあります。相談者の方は、以前から後部硝子体剥離があり、飛蚊症を自覚されていたのだと推察します。また、これまで外傷などの大きな目の異常がなければ、星状硝子体症ではないかと思います。
ただし、相談者が診察を受けた先生の言った通り、現段階で治療の必要はなく様子を見て構わないと思います。血液中のコレステロールとも直接的な因果関係がありませんので心配ありません。今後も眼科医による定期検査を受け、見え方に変化があれば早めの受診が望ましいでしょう。