【答え】 成人の夜尿症 -原因多様重大疾患の場合も-
徳島大学大学院泌尿器科学分野・助教授 西谷 真明
20歳で夜尿症が始まったとのことですが、まず、小児の夜尿症も含めた一般的なことから話します。
夜尿症は睡眠時遺尿症とも呼ばれ、年齢にかかわらず睡眠時に無意識のうちに排尿してしまうことをいいます。小児の夜尿症は五歳では20%弱の頻度でみられますが、10歳では5%まで減少し、成人まで持続する人は1%程度と考えられています。
赤ちゃんのころからずっと続いている夜尿症は、神経系の発達が未熟であることにより、膀胱(ぼうこう)が尿でいっぱいになっても目が覚めないことが原因の場合や、膀胱が尿でいっぱいになる前に勝手に縮んでしまうことが原因の場合があります。
また、抗利尿ホルモン(尿量を減らすホルモン)は通常昼間よりも夜間に多く分泌されますが、夜尿症児では夜間の抗利尿ホルモン分泌の増加が不十分であることが報告されています。
赤ちゃんのころよりずっと夜尿症が続いている場合を一次性夜尿症、少なくとも半年間は夜尿症がなかった時期があり再度出現した場合を二次性夜尿症と分類します。質問の女性のように大人になってから夜尿症が出現した場合も、二次性夜尿症に分類されます。
小児の場合では、二次性夜尿症は下の子どもの誕生など精神的なものが原因となっていることがあります。しかし、成人の場合にはそのようなことは考えにくく、何らかの隠れた病気の存在を疑う必要があります。
睡眠障害は成人夜尿症の原因の一つです。まず、確認しておかなければいけないのが、アルコールや睡眠薬がその原因となっていないかということです。この点に関しては、質問の女性は心配ないようです。睡眠障害のうちでも頻度の高い睡眠時無呼吸症候群では夜間の尿量が増えるため、夜中に何回もトイレに起きるようになり、夜尿症の原因となることもあります。また、睡眠時遊行症、いわゆる夢遊病も夜尿症を合併することが多いと考えられています。
尿を蓄えたり排出したりする働きを持つ膀胱は、手や足と同じように神経によって動きが調節されています。従って、神経の病気が夜尿症の原因となることがあります。脳血管障害や脳腫瘍(しゅよう)、多発性硬化症(免疫異常により神経系が障害される病気)などの重大な神経の病気が夜尿症によって判明する場合もあります。
ただし、これら神経の病気では、昼間にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状を伴うことが多いようです。ほかにも、糖尿病や尿崩症のように極端に尿の量が増えるような病気でも夜尿症が引き起こされることがあります。
このように、成人になってから始まる夜尿症では多様な原因を考える必要があり、治療においても原因によって全く対処方法が異なってきます。また、先ほど述べましたように頻度は多くないのですが、重大な病気が隠れている場合があるので、一度専門医にかかって相談することを勧めます。
徳島新聞2005年7月17日号より転載