先が割れ、薬使うとかゆくなる
【質問】80代の女性です。10年ほど前から、両手、両足の爪の表面がガサガサ、凸凹になって悩んでいます。爪の先が割れ、服に引っ掛かることもあり、人前で手を出すのもためらいます。皮膚科を受診しましたが、爪の表面に塗る薬を使うと2、3カ月して指の先がかゆくなり、赤くなるまでかいてしまいます。適切な治療法があれば、教えてください。
徳島大学大学院 医歯薬学研究部 松立吉弘 先生
組織検査必要な場合も
【答え】爪にもさまざまな部位があり、通常「爪」と呼ばれる硬い部分を「爪甲」と言います。爪甲は根元の「爪母」から作られ、「爪床」の上を滑るように前方に押し出されます。
爪母の働きが阻害されると爪甲の発育が抑制され、爪甲は薄くなったり、縦に筋が入って割れたりします。時には爪甲が部分的に作られず、皮膚が長く張り出したようになることもあります。爪床に異常があると、爪甲が剥がれたり、爪甲下の角質が増殖したりします。
相談者の症状は、主に爪母に異常があり、爪甲の発育が抑制された状態(爪甲異栄養)と考えます。
このような症状は<1>扁平苔癬や乾癬、円形脱毛症、カンジダ性爪炎などの皮膚疾患<2>甲状腺機能低下症などの全身疾患<3>酸やアルカリ、有機溶剤などの化学物質による外的刺激-といった原因で生じます。
相談者は、倦怠感やむくみといった全身の症状や、化学物質を扱う特別な職業歴には触れられていませんので、<1>の皮膚疾患に絞って考えていきます。
爪甲の変化だけを診て、原因となる皮膚疾患を見分けることは容易ではありません。扁平苔癬や乾癬は、爪以外にも皮膚症状や口腔粘膜症状を伴うことがあるので、診断の助けになります。ただ、正確な診断には爪部の組織検査が必要な場合もあります。
爪扁平苔癬の治療はステロイド外用薬が一般的で、程度が強ければ、ステロイドの内服薬も用います。保険適用外ですが、タクロリムス軟こうの有用性も報告されています。しかし、症状が出てからの経過が長い患者さんの場合、爪が元の状態に戻れないほど変形して治療にも反応しないことがあります。
爪乾癬の治療は、ステロイドやビタミンD3外用薬、内服薬の「エトレチナート」や「シクロスポリン」の服用、光線療法が行われます。最近では、生物学的製剤も登場し、高い治療効果を得ています。
円形脱毛症による爪の変化は、大部分は脱毛と同時に生じますが、まれに爪の変化が先行することもあります。治療は、ステロイドの外用薬を用います。爪の症状は円形脱毛症の進行と相関するため、毛髪病巣の治療に合わせて経過観察してもよいと思われます。
カンジダ性爪炎は、爪甲の表面に付着した鱗屑を採取し、顕微鏡で観察することで診断できます。治療は抗真菌薬の外用や内服を用います。指をできるだけ乾燥させることも重要です。
相談者が使用している塗り薬の詳細は分かりませんが、使って2、3カ月で指先がかゆくなったり、赤くなったりしていることから薬による接触皮膚炎(かぶれ)を起こしている可能性も考えられます。適切な治療には、正確な診断が何よりも重要です。まずは皮膚科専門医の受診をお勧めします。