抗原の数値じわじわ上昇
【質問】78歳男性。前立腺の病気で2014年からホルモン薬を毎日服用しています。前立腺特異抗原(PSA)の数値はじわじわ上昇傾向です。散歩の時に胸痛の症状が15分くらい出るようになっています。次の治療法の検討を提案されています。治療は手術、注射、放射線などが選択肢です。決めかねているので判断材料がほしいです。それぞれの利点と欠点を教えてください。また副作用には何がありますか。それに手術で前立腺を摘出すると、抗原がなくなって心配しなくてよくなるのですか。
ロボット手術の技術進展
県立三好病院泌尿器科部長 中西良一 先生
【答え】前立腺の病気とのことですが、治療経過から前立腺がんの診断と考えてよさそうです。
前立腺がんの治療は大きく分けて、手術、放射線治療、ホルモン療法の3通りがあります。手術と放射線治療はどちらもがんを根治できる可能性の高い治療法です。一般的には両方ともがんが前立腺の中にとどまっている場合の治療です。
手術は全身麻酔をかけて行うので、手術や麻酔に耐え得る体力が必要です。例えば、大きな心臓の病気がある場合は、手術を受けるのが難しいこともあります。相談では、最近、胸痛があるとのこと。心疾患の可能性があり、いずれの治療法を選択する前にも、内科で詳しく調べる必要があります。
手術はダヴィンチと呼ばれる内視鏡手術支援ロボットを医師が操作することで、前立腺を取り除きます。近年、この分野の手術方法は技術革新が目覚ましく、以前にくらべると、尿失禁や出血などの副作用が非常に少なくなっています。手術で前立腺を完全に取り除くことができれば、PSAの値はほぼゼロに近づきます。しかし、どんながんでも、一度治療をすれば終わり、というわけではありません。再発や転移の可能性を考える必要があります。定期的にPSAを測定することで早期に再発や転移を発見できます。
放射線治療には特有の副作用があります。前立腺だけでなく、周りにある臓器や皮膚が放射線の影響を受けることがあります。皮膚炎、腸炎、ぼうこう炎などです。
一方、ホルモン療法は、男性ホルモンの分泌や働きを抑えることで、前立腺がん細胞の増殖を抑制する治療です。がん細胞を完全に取り除いたり、死滅させたりする治療ではありません。一般的には、前立腺がんが進行している場合や、手術や放射線治療を受けるのが難しい場合、選択されることが多いです。ホルモン治療は一生涯続ける必要があります。
いずれの治療を選択する場合にも、あらためてがんの広がり具合を画像検査で調べ、治療を受ける人の健康状態を考えながら、治療に当たります。