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【質問】 治療薬の効果とリスク

 30代後半の男性です。男性型脱毛症の経口内服治療薬「フィナステリド」が薄毛によく効くと耳にします。育毛関連の書籍で調べましたが、薄毛は遺伝的要素が強く、子づくりの時期に治療薬を服用すると、生まれてくる子どもに悪影響が及ぶとの記述がありました。治療薬のリスクについて教えてください。



【答え】 男性型脱毛症 -肝機能障害の人は避けて-

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部皮膚科学分野 久保宜明

 男性型脱毛症は、遺伝的素因を持つ思春期以降の男性に発症し、前頭・頭頂部の毛髪が細く短くなります。額の生え際が後退して頭頂部が脱毛し、最終的には前頭・頭頂部の毛髪がなくなります。

 頭髪は1本ごとに固有の毛周期を持ち、毛が伸びる「成長期」(3~7年)、伸びが止まり毛包が短縮する「退行期」(2~3週)、毛髪新生への準備をする「休止期」(約3カ月)を経て、また「成長期」に入ります。男性型脱毛症では、前頭・頭頂部の毛髪の「成長期」が短縮し、「休止期」にとどまる毛包が増加します。

 男性型脱毛症の発症には、男性ホルモン(テストステロン)が関与しています。毛は、根元にある「毛母細胞」が増殖、分化することによって作られます。男性型脱毛症の前頭・頭頂部の毛髪では、男性ホルモンは毛母細胞近くの「毛乳頭細胞」に作用し、毛母細胞へ増殖抑制シグナルを伝えます。

 男性ホルモンは、毛乳頭細胞内に入ると5αリダクターゼ?型という酵素によって、より強力な男性ホルモンである5αジヒドロテストステロン(DHT)へ変換されます。フィナステリドはこの酵素を選択的に阻害することにより、頭髪での男性ホルモンの作用を抑制します。

 フィナステリドには、1ミリグラム錠と0.2ミリグラム錠の2種類があり、基本的には1ミリグラム錠を1日1回内服します。朝食後に内服してもらいますが、いつ内服しても問題ありません。

 6カ月~1年で効果がみられることが多く、日本人で有効率(やや有効以上)は、1年で約60%、3年で約80%であり、やや有効以上に維持(進行なし)を加えると3年で98%と報告されています。ただし、内服を中止後3~6カ月で脱毛が進行するので、継続して内服しなければなりません。

 5αリダクターゼは2種類あり、毛乳頭細胞と前立腺では2型、主要臓器(筋肉、肝臓他)では1型が主に働いています。フィナステリドは1型を阻害せず、2型を選択的に阻害しますので、全身への影響はほとんどありません。

 性機能障害(性欲減退・勃起不全)について、海外では少しリスクを上げるという一部の報告もありますが、日本では、ここに挙げた有効率の報告や最近の3千人を超える報告でも、有意な性機能障害はみられていません。

 内服中、精子に問題はなく、精液を介して女性の体内に吸収される量も微量で、子づくりにも心配はありません。ただし、この薬は肝臓で代謝されますので、通常量の飲酒は構いませんが、肝機能障害のある人は避けた方が無難です。

 以上の効果とリスクから、一般的な男性型脱毛症の方にお薦めできる薬剤です。ただし、この脱毛症は髪の生理的変化や個性とみなされ、治療に保険が効きません。1日約250円の薬剤費や診察料(数千円)は自費になります。

 徳島大学病院では一般診療とは別に月2回(第1、3火曜日の午後3時~4時半)、男性型脱毛症外来を行っています。予約や紹介状は不要で、基本的に3カ月処方をしています。多くの皮膚科クリニックでも処方可能ですので、最寄りの皮膚科専門医へもご相談ください。

徳島新聞2012年4月29日号より転載

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