【質問】 父の死で母の様子が変化
80代の母のことです。数カ月前に父が亡くなってから、同じ話を繰り返し、身なりにかまわなくなったり、細かな金銭の計算などができなくなったりして、認知症の始まりかと心配しています。それとも、父を亡くしたショックによる一時的なうつ状態のようなものなのでしょうか。
【答え】 認知症とうつ病-責めずに受容的対応を-
宮内クリニック 宮内吉男(徳島市名東町)
数カ月前にお父さんを亡くされた上に、お母さんのご様子にも変化があり、さぞご心配なことでしょう。同じ話を繰り返す、身なりに無頓着になる、計算ができなくなるといった症状は、アルツハイマー型認知症(以下認知症)に典型的なものといえます。しかし、高齢者のうつ病やうつ状態でも同様の症状があることは、まれではありません。
もの忘れがいつとはなしに始まっている認知症とは異なり、うつ病ではその始まりの時期がはっきりしていたり、きっかけがあったりすることが多いものです。その点では、今回のご質問は、夫の死を契機として発症しているようなのでうつ病が疑われるかもしれません。
認知症とうつ病の主な違いを別表にまとめてみましたが、認知症であったとしても、配偶者の支援によって日常生活を破たんなく暮らしている方は多く、配偶者の死によって認知症が突然発症したように見える場合もあります。さらに認知症の始まりが、表情の乏しさや意欲の低下など、うつ病と同様の症状であることも少なくありません。
認知症 | うつ病 | |
---|---|---|
発症時期 | 物忘れなどがいつとはなしに始まっている | 特定できる何らかの契機がある |
物忘れの訴え方 | 自覚がない | 強調する |
答え方 | つじつまを合わせる | 「分からない」と答えることが多い |
記憶障害 | 記憶障害の程度に応じた日常生活の障害がある | 軽い割に日常生活の障害が強い |
身体症状 | ないことが多い | ある |
日内変動 | ない | ある(朝よくない) |
自殺念慮 | ない | みられる |
また、今回説明したうつ病のように、認知症の症状と似ているが認知症ではない仮性認知症という病気もあります。そのほか、甲状腺機能低下症、正常圧水頭症、坑コリン薬や催眠鎮静薬による中毒などにも同様の症状が見られます。これらは早期に治療すれば非常によくなります。
認知症を診断する検査としては、甲状腺機能などの血液検査とともに、まずMMSEなどの簡易知能評価スケールがあります。記憶する力や時・場所の見当をつける能力などが、どの程度まで障害されているかを判定するものです。
さらに、脳の構造の変化がわかる頭部CTやMRI検査もあります。必要ならば、脳の血流量や代謝量を知ることができ、脳の機能変化がわかる頭部SPECTやPETなどを実施し、総合的に診断すべき場合もあります。
また、高齢者でうつ病と診断された方は、その後数年すると認知症となることが多いという報告もあります。お母さんは80歳代の高齢者なので、認知症は常に考慮しておく必要があるでしょう。
いずれにしても今回の質問内容だけでは、認知症とうつ病の鑑別は困難です。ご家族の対応としては、できないこと・やらないことを責めるのではなく、受容的に接してください。また、お母さんの病状は一時的なものではない可能性が高いと思われますので、できるだけ早く、専門医療機関を受診し、検査・加療を受けることをお勧めします。
徳島新聞2009年5月17日号より転載