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【質問】 先日から耳が聞こえない

 67歳の主婦です。疲れたときだけ耳が聞こえにくいことがあったのですが、先日、突然に自分の声以外がこもったように聞こえるようになりました。近くで呼ばれても、その声がとても遠くからのように感じます。左右の耳の聞こえ方が違っているようにも思えますが、はっきりと聞こえないと気分もイライラします。年のせいなのか…。ストレスで聞こえにくくなることもあるのでしょうか。



【答え】 突発性難聴 -早めに専門医で受診を-

いしたに耳鼻咽喉科クリニック 石谷 保夫(徳島市北矢三町3丁目)

 突然、人の声が聞こえにくくなり、さぞかし不自由なこととお察しします。相談内容からすると、両耳あるいは片方の耳にかなり高度な難聴が起こっているものと思われます。必ず耳鼻咽喉科で診察してもらってください。

 耳あかが外耳道をふさぐ耳垢塞栓(じこうそくせん)や中耳炎など、外耳・中耳疾患でも難聴は起こりますが、相談内容から最も疑われる疾患は「突発性難聴」です。突発性難聴とは、健康で耳の病気を経験したことのない人が明らかな原因もなく、あるとき突然、通常は片方の耳が聞こえなくなる病気をいいます。

 1993年の全国調査では、突発性難聴の全国受療者数は推定で年間24,000人、人口100万人に対して192.4人でした。しかし、2001年の調査では年間35,000人で、人口100万人に対して275.0人と増加しています。突発性難聴の原因は残念ながらはっきりと分かっていません。現在はウイルス感染説と内耳の血液の流れが悪くなる内耳循環障害説が有力です。

 症状は、突然に耳が聞こえなくなる(高度の難聴)と同時に、耳鳴りや耳が詰まった感じ、目まい、吐き気を生じることもあります。また、突発性難聴では四肢のまひや意識障害といった耳以外の神経症状が認められないのが特徴です。発症が突発的であるため、患者が発症の時期や状況を覚えていることが多く、「いつからかはっきりしないが、徐々に聞こえなくなった」というような難聴は突発性難聴ではありません。

 突発性難聴にはさまざまな治療法があり、発症時の状況や臨床所見、既往歴などを総合的に判断して治療法を決定します。血管拡張を目的とした薬剤としては血管拡張剤が用いられます。また、血栓により内耳循環障害が生じていると考えられる場合には、抗凝固剤が用いられます。細胞の働きを活性化させる代謝賦活剤や向神経ビタミン製剤が併用されることもあります。

 ウイルス感染に対してはステロイド剤が広く用いられています。ステロイド剤が持つ強力な抗炎症作用が、ウイルス性内耳炎の症状を緩和させると考えられます。また、ステロイドには循環障害により生じる活性酸素を抑制するなどの効果もあります。

 突発性難聴の急性期では安静も重要です。発症前に精神的、肉体的疲労感(ストレス)を感じていることが多く、心身ともに安静にしてストレスを解消することが大切です。難聴の程度によっては入院治療が望ましい場合もあります。安静によって内耳循環障害の改善が期待されます。

 治療により、3分の2の患者は完治あるいは改善します。しかし、残り3分の1の患者は残念ながら改善しません。改善しにくいケースとしては<1>発症後2週間以上を経過した症例<2>発症時の平均聴力レベルが90デシベル以上の高度難聴例<3>回転性目まいを伴う症例<4>高齢者-などが挙げられます。

 中でも難聴発症から治療開始までの期間は重要で、早期に治療を始めるほど治りやすく、難聴発症後1週間以内なら治療成績は特に良いようです。「そのうち治るだろう」と放置せず、早めに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。

 突発性難聴は、再発しないことが一つの特徴とされています。再発するようなら、外リンパ瘻(ろう)、メニエール病、聴神経腫瘍など他の疾患も疑わなければなりません。治療が終わるまで、医師の指示に必ず従うようにしてください。

徳島新聞2007年1月14日号より転載

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