【質問】 引っ越し後に不快感続く
32歳の女性です。5年ほど前より突然の頻脈、脈とび、のどや胸の詰まった感じ、みぞおちの不快感などの症状があり、病院へ行きましたが、どこも悪くないといわれました。ここ何年かは落ち着いていたのですが、最近、また調子が悪くなり、食後に腹が張って胸を圧迫する感じ、頭痛、目がしょぼしょぼする-などの症状が加わりました。半年ほど前に新しいマンションに引っ越したことが影響しているのでしょうか。前に症状が出たときは、その半年前にシロアリ駆除を行いました。また、パーマや毛染めをしていると、症状が強くなる傾向があります。
【答え】 化学物質過敏症とシックハウス症候群
-症状はいろいろ 体質が関係-
大塚内科 大塚 明廣(阿波郡阿波町南整理)
この半世紀の間に、環境汚染や自然破壊が進み、人間が多くの化学物質と接触するようになり、新しい健康被害を生じるようになりました。その中に化学物質過敏症やシックハウス症候群という病気があります。
化学物質過敏症は、大量の化学物質との接触や、微量の化学物質がある環境で長期間生活した後で、再度、微量な化学物質に接した場合に不愉快な症状が出てくる病気といわれています。
化学物質過敏症の症状 (何らかの化学物質と接点があることが前提) | |
自律神経症状 | 発汗異常、手足の冷え、 疲れやすい、めまい |
神経・ 精神症状 | 不眠などの睡眠障害、不安感、 うつ状態(不定愁訴と言われる もの)、頭痛、記憶力低下、 集中力低下、意欲の低下、 運動障害、 四肢末端の知覚障害、 関節痛、筋肉痛 |
気道症状 | のど・鼻の痛み、乾き感、 気道の閉塞感、 かぜをひきやすい |
消火器症状 | 下痢、時に便秘、悪心 |
感覚器症状 | 目の刺激感、目の疲れ、 ピントが合わない、鼻の刺激感、 味覚異常、音に敏感になる、 鼻血 |
循環器症状 | 心悸亢進(しんきこうしん)、 不整脈、胸部痛、胸壁痛 |
免疫症状 | 皮膚炎、せん息、 自己免疫疾患、皮下出血 |
泌尿生殖器・ 婦人科系症状 | 生理不順、性器不正出血、 月経前困難症、頻尿、排尿困難 |
化学物質過敏症の原因は、室内空気汚染(新築、リフォーム、防アリ・防ダニ処理、家庭内での薬品使用)や大気汚染によるものがほとんどです。室内空気汚染により引き起こされる過敏反応と、汚染のひどいときに生じる中毒症状を、シックハウス症候群といいます。
シックハウス症候群の症状も、化学物質過敏症の症状に類似していますが、シックハウス症候群では、原因の住居を離れれば、症状が完全に消えてしまいます。一方、化学物質過敏症は住居を離れても、その後、いろいろな微量の化学物質に非常に敏感に反応します。また、家族全員がかかることが少ないのが特徴です。
シックハウス症候群は、慢性中毒症と考えることもでき、同じ住居で暮らす家族のほとんど全員がかかるといえます。これらの疾患は共通点が多く、患者の七割以上は女性です。また、症状も似ていますが、困ったことに、原因物質によって、必ずしも一定の症状が出現するわけではありません。同じ化学物質から出てくる症状でも、個人により異なります。例えば、シックハウス症候群をよく引き起こすホルムアルデヒドで発症しても、頭痛が起きてくるのか、胸痛か、下痢なのかは、その人の体質によって決まります。
このように、どれが主な症状なのかはっきりと一つに絞れない例があるため、とかく精神的なものとか、神経症扱いをされてしまうことが多いといえます。
これらの疾患は、病歴によってほぼ診断がつきます。時間をかけて詳しく化学物質との接触歴を聞く必要があります。また、精神神経的な異常、例えば神経症などを除外するため、他覚的な検査として神経機能検査や血液検査、化学物質の負荷試験を行うことも診断の助けになります。
今回の相談者は、症状が出る半年前にシロアリ駆除を行っていますので、有機リン剤による化学物質過敏症を起こしている可能性があります。また、新しいマンションに引っ越したとき、再度症状が出現していますので、シックハウス症候群の可能性も強いと考えられますが、確定診断のためには、もっと詳しい病歴や検査が必要ですので、専門医を受診されることをお勧めします。
徳島新聞2004年9月12日号より転載