【質問】 たんが多くのどの奥に違和感
61歳の女性です。10年ほど前からのどの奥に何か引っかかっているようで、たんが多く出ます。1日に20数回吐き出しています。朝一番は黄土色のようで、後は白色です。風邪をひいたときなどは、特に多く出ます。口の中はいつも粘く、鼻から口へと流れるような感じがします。病院では「手術するほどではないが、蓄膿(ちくのう)です」と言われ、のどと鼻を洗うことのみの治療を受けたこともあります。毎日不快感があり、すっきりしません。毎日の通院も大変なので、やはり手術を受けた方がいいのでしょうか?
【答え】 後鼻漏 -時間かけ根気よく治療-
雫耳鼻咽喉科医院 雫 俊一(徳島市蔵本町2丁目)
鼻の中の空洞を鼻腔(びくう)といいますが、ここは呼吸の際の空気の通り道として、重要な役割をしています。それは、吸う息を温めるほか、加湿器のように潤したり、ちりやほこりを除去、細菌をろ過したりしています。そのために鼻腔の中は正常でも、少量の粘液が分泌されて鼻汁となり、湿った状態になっているのです。すなわち、正常でも鼻汁は存在しますが、少量のため自覚することはありません。したがって、はなをかんだりする必要もありません。
ところが、種々の病気によって鼻汁の量が多くなると、それが垂れてきてかむ必要が出てきます。これを鼻漏(びろう)といいます。また、鼻腔の周りには副鼻腔といういくつかの骨の空洞があり、この部分でも炎症で粘い液や膿(うみ)がたまってくることによって、鼻腔の方に出てくる場合もあります。これがいわゆる「蓄膿症」で、正式には「副鼻腔炎」といいます。
鼻漏となって出てくる鼻汁には、花粉症などのアレルギー性鼻炎や風邪の初期に見られる、いわゆる水っぱなもありますが、副鼻腔炎の場合は粘い、あるいは膿の混ざったものがほとんどです。ちなみに、悪臭のある鼻汁や血液の混じった膿性の鼻汁は、カビや腐敗菌などの特殊な感染や腫瘍(しゅよう)の可能性もあるため、注意が必要です。
ところで、鼻汁が多くなった場合、すなわち鼻漏になっている際は、出口として鼻の穴のほかに、後方、つまり鼻腔からのどの側にも流れます。これを「後鼻漏」といいます。質問の蓄膿症、すなわち副鼻腔炎は成人の場合、構造上、この後鼻漏の方が多いのです。そして、この症状は慢性の副鼻腔炎の症状のうち、最も治りにくいものです。後鼻漏は、昼間起きて生活をしている際には、たまった鼻汁をかんだり、無意識のうちに飲み込んだりしていることが多いのですが、寝ている間は鼻汁がほとんど、のどの方に流れ、起きるまでたまっています。さらに後鼻漏が多い場合は、質問の女性のようにしばしば自覚するようになり、不快感を覚えるようになります。
さて、慢性の副鼻腔炎の治療については、通院による保存的療法と手術があります。保存的療法としては、薬液の噴霧によって鼻の穴の腫れを取ってから副鼻腔に霧状になった治療薬を入れるネブライザー療法や内服薬をしばらくの間続けるものがあります。しかし、ある程度を超えて副鼻腔に元に戻らないほどの腫れなどのある場合は、治癒させるために手術も必要となります。しかし、手術をしただけでは、後鼻漏が止まらないことも少なくありません。そのため、当分の期間は術後の治療と経過観察のための通院も必要となります。
いずれにしても、後鼻漏はどんな治療でも直ちに消失させる方法はありません。しかし、もちろん不治というわけでもないので、時間をかけて根気よく治療されることを勧めます。