徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 液体状の大量の耳あか

 28歳の主人のことで相談します。耳あかが多く、耳あかというよりも耳から水が出てくる感じです。かなり臭いもあります。一度耳鼻科に行きましたが、いまだに治りません。いつも耳あかが詰まり、取ろうとしても固まっているために取れません。耳鼻科では「手術しないと治らない」「耳あかがカビている」とも言われました。治す方法を教えてください。



【答え】 耳外道湿疹 -耳に触れなければ治癒-

仁木耳鼻咽喉科 院長 仁木 宏(板野郡北島町鯛浜)

 ご質問から推測しますと、あなたは外耳道湿疹(しっしん)と思われます。外耳道湿疹はほとんどの場合、綿棒や耳かきで外耳道を掃除する習慣がある人に起こります。綿棒や耳かきで外耳道を触ることがなぜ炎症や湿疹の原因になるのでしょうか。外耳道の働きから説明します。

 外耳道にはちょうどベルトコンベアーのように、鼓膜や耳の奥の外耳道の脱落した上皮(皮膚のあか)を外側に運ぶ自浄作用が働いています。体の皮膚はおふろに入り、石けんで洗ってきれいにしますが、外耳道にはこの自浄作用があるため、いつもきれいなのです。

 人が綿棒や耳かきで外耳道を掃除すると、皮膚を傷つけ、この自浄作用を妨害してしまいます。さらには脱落上皮の動きと逆方向(外耳道の奥の方)に皮膚のあかを押し込めてしまいます。

 耳あかが外耳道にたまると、耳に入った水を捕らえやすく、その結果皮膚がふやけ、病原菌が侵入しやすくなり、外耳道炎や外耳道湿疹が起こるのです。

 このほか、補聴器の使用や、スイマーズイヤーといって水泳中に耳に水が入ったとき、また入浴時に濡れた外耳道を綿棒で掃除したりパーマ液が入ったりしたときなど、反復するこうした外からの刺激がきっかけで起こることが多いようです。

 外耳道に炎症や湿疹が起こると、耳がとてもかゆくなります。外耳道はかけばかくほどかゆくなります。これを反復するといわゆるキシルがでてきます。耳から水が出るというのは、皮膚を傷つけたために出る炎症性の浸出液のことです。

 臭いがきついのは、外耳道の傷が緑膿(のう)菌、黄色ぶどう球菌、グラム陰性菌、あるいはまれに真菌などの細菌に感染したためです。一度耳鼻科で見てもらったが治らないとのことですが、耳をかく習慣がある限り治りません。いったん治っても、すぐ耳をかいて外耳道を傷つけ、耳の自浄作用を妨害して再発させるのです。耳をかくことが、即病気につながるのです。

 治療のためには、綿棒や耳かきを使う習慣をやめましょう。耳鼻科医の指示を守って、薬を塗るとき以外は絶対に耳を触らないことです。これさえ守ってもらえれば、初期の湿疹はすぐに治ります。しかし再発を繰り返した病変は、り患期間が長いほど治療も長引きます。薬は炎症の状態、感染菌の種類によって異なります。外耳道湿疹の場合、手術の必要はありません。

 耳をかき続けて骨部外耳道を傷つけると、外耳道真珠腫(しゅ)といって、外耳道の骨を破壊する真珠腫ができます。ひどくなると手術が必要です。また軟部外耳道を傷つけ続けると、悪性外耳道炎になります。皮下組織の深いところまで細菌が感染してなかなか治りません。ひどくなると聴力障害や顔面神経麻痺(まひ)なども起こし、手術しなければなりません。

 悪性外耳道炎は、一般に高齢で糖尿病がある人や、免疫力の低下した人に発症するといわれていますが、最近では耳かきの習慣のある人にもみられるという報告があります。

 外耳道炎や湿疹は、耳を触ることが病気の始まりで、触らなければ治る病気です。

徳島新聞2000年7月30日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.