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【質問】 10年前から手に震え

 69歳の女性です。10年ほど前から手の震えに悩まされています。特に左手で湯飲みを持つと震え、湯がこぼれそうになるのです。また、字を人前で書くと、必ず震えるので他人に書いてもらっています。実父も同様に震えていました。手の震えは治療できるのでしょうか。



【答え】 振戦 -原因疾患の有無 確認を-

賀川脳神経外科クリニック 院長 賀川 潤(徳島市応神町東貞方)

 骨格筋の運動は、主として錐体路(すいたいろ)と呼ばれる運動神経の経路が支配していますが、この運動が円滑、スムーズなものとなるために、この錐体路とは別に、錐体外路と呼ばれる神経機能も関与しています。

 ところが、この錐体外路系が血管障害、腫瘍(しゅよう)、外傷、脳炎、変性、薬物中毒など(原因不明のこともある)により障害を受けると、運動の円滑さは失われ、不随意運動と呼ばれる症状が現れます。その一つに、自分の意志とは無関係に「手が震える」という症状があり、それを「振戦」といいます。そこで、この振戦がみられる疾患について簡単に説明します。

 振戦は、正常の状態でも、精神的緊張や疲労、ストレスなどが高度な場合にみられることもありますが、一般的にはいろいろな疾患の一症状としてみられます。

 その代表的なものがパーキンソン症候群です。この疾患では安静にした状態で震え(安静時振戦)がみられます。そして、これは最初、左右いずれかの手指に始まることが多く、病状が進行するに従って、全身に及んでいきます。また、この手指の振戦は、親指と他指との指先で丸薬を丸めるような不随意運動が特徴です。

 パーキソン症候群には、この「振戦」のほかに、「筋硬直」、「随意運動の低下」もみられ、この3つを合わせ、主要三兆候といい、これにより臨床診断はそれほど困難ではありません。この疾患は、いろいろな脳障害などに続発して発症しますが、原因不明のものもあります。

 次に「多発性硬化症」という脱髄疾患の代表的な疾患があります。これは、筋肉を緊張させ、一定の姿勢を保ったときに出現する震え(姿位振戦)が特徴です。小脳障害により起こるもので、しばしば激しい震えを生じます。またこの疾患は、中枢神経系のさまざまな部分に障害をこうむるので、運動まひや感覚障害などの多彩な神経症状を伴います。

 また、原因疾患もなく、震えが出現する「本態性振戦」というものがあります。高齢者に出現する老人性振戦もこれに含まれるのですが、しばしば同じ家族の中で出現することもあり、一般には手足、特に手に多く見られ、また利き手側に強いことが多いようです。この振戦も激しくなると、字を書いたり、はしを使ったりする細かな運動が困難になります。

 その他、アルコール中毒、甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症、薬物中毒、遺伝性代謝疾患の「ウィルソン病」や重度の肝臓疾患や水銀中毒などでも振戦が見られることがあります。

 さて、ご質問に対してですが、その内容からは、震えるのは手だけなのか、また何か他の神経症状も伴うのか、詳細が不明なので明確なお答えは難しいと思います。

 まずは、パーキンソン症候群など原因疾患の有無を確かめる必要があります。そして、治療はいずれの疾患の場合も薬物治療が主体となりますが、これにより震えが改善することもあります。いずれにしても一度専門医(神経内科または脳神経外科)の診察を受けることをお勧めします。

徳島新聞1999年10月24日号より転載

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