【質問】 ひどい全身のかゆみ
72歳の男性です。3年ほど前から湿疹(しっしん)に悩まされています。最初は首にできてかゆくなり、皮膚科で軟こうをもらい、つけると症状は良くなりました。ところが、昨年から、かゆみの症状がひどくなっています。脚を中心に腹、手足など、ところかまわず急にかゆくなり、その周辺の皮膚が真っ赤になります。ひどいときは寝つきが悪くなったり、かきすぎて、ひっかき傷をつけたりするときもあります。皮膚科でもらった、かゆみを止めの内服剤と軟こうを使っていますが、あまりかんばしくありません。漢方薬を使ってみては、と勧めてくださる方もいます。適切な治療方法を教えてください。
【答え】 老人性皮脂欠乏性湿疹 -皮膚の保湿に留意を-
多田皮膚泌尿器科 院長 多田 弘(徳島市通町2丁目)
冬期に高齢者の皮膚疾患で最も多いのが「老人性皮脂欠乏性湿疹」です。高齢社会を迎え、かゆみを訴えて皮膚科の外来を訪れる患者が増加しています。
皮膚の水分量低下と皮脂分泌の減退で、皮膚がかさかさになる「乾皮症」が進むと、かゆみを伴う「皮膚掻痒(そうよう)症」になります。これに、かきむしるなどの刺激が加わり、赤みがさしたり、隆起したつぶつぶの赤い発疹(はっしん)が現れ、さらに、ただれやかさぶたなどが加わると、いわゆる湿疹状態になるのです。これを「皮脂欠乏性湿疹(皮膚炎)」と診断しています。
高齢者の皮膚乾燥を悪化させる原因として、低温や低湿といった大気の条件、加湿を無視した過剰な暖房、頻繁な入浴、過度のせっけん使用などがあります。
皮脂と水分でつくられている脂肪膜は、若い人に比べ高齢者が薄くなっているので、摩擦などの強い物理適刺激に対して弱いといえます。更に、表皮の最も外側にある角質層の水分量も、発汗や大気中の湿気に左右されるため、外気が乾燥する冬や冷暖房による低湿環境では、ドライスキンになりやすいのです。
逆に、大量の水分が供給される入浴後は、一時的に乾燥が解消されますが、30分ほどで再び元のドライスキンに戻ります。角質の水分保持能力は、主として皮脂腺から分泌される皮脂量、表皮細胞が生み出すセラミドなどの角質細胞間脂質量やアミノ酸で決まります。
また、皮脂の分泌は、性ホルモンに依存するため、女性では40代、男性は50代から皮脂分泌量が減少することが分かっています。
皮膚にかゆみを起こさせる代表格のヒスタミンは、皮膚の裏側に存在し、免疫作用の重要な担い手であるマスト細胞で合成された後、貯蔵されます。これが、さまざまな皮膚刺激に反応して放出されることで、このようなかゆみのメカニズムは、だいぶ解明されつつありますが、まだ完全ではありません。
先に述べたように、老人性皮脂欠乏性湿疹は、皮膚の乾燥や乾燥しやすいことが基本にあります。このため、外温に影響されやすい足の下の方に起こりやすいのですが、体のどこでも発症し、広がっていく傾向があります。
軽症だと、尿素軟こうを1日に2回くらい、特に皮膚に湿り気のある入浴後15分の間に塗ります。重症の場合は抗ヒスタミン軟こう、ときにはステロイド軟こうを塗ってすり込みます。広範囲でかゆみが強い場合は、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服を併用します。
漢方薬では、「当帰飲子(トウキインジ)」が使われているようですが、私は使ったことがないので効果のほどは分かりません。かゆみが、あまりにも頑固で長期に及ぶときは、糖尿病、肝障害、腎障害などの有無を検査しなければなりません。ひどい便秘などもかゆみに影響することがよくあります。いずれにしても、皮膚の保湿や保護に十分留意してください。