【質問】二の腕全体にブツブツ
50代前半の女性です。長い間、二の腕全体に広がるブツブツに悩まされています。ブツブツから白い膿のようなものが出ることもあります。暑い季節が特にひどいのですが、涼しくなっても完全に治るわけではありません。以前、皮膚科で「これは遺伝だから、薬はない」と言われ、諦めていたのですが、先日テレビで、似た症状が「マラセチアという菌によるもので、治る」と紹介されていました。治療法や、治せる病院を教えてください。
あいずみ皮ふ科 井上利之先生
【回答】薬で治療、根治は困難
二の腕のブツブツという言葉を聞くと皮膚科医はまず毛孔性苔癬(もうこうせいたいせん)という状態を連想します。これは多くの患者さんが気にしていますが、遺伝性のものであまりよく効く薬はありません。
しかしこれは一般に若年者に見られるもので、30歳を過ぎるころから少しずつ平坦(へいたん)化し目立ちにくくなっていきます。また白い膿が出て夏に悪化するというのも毛孔性苔癬に一致しません。質問をいただいた方の年齢や症状をうかがうと、毛孔性苔癬の可能性は低いと考えます。
マラセチアに関するテレビ番組を見たとのことですが、マラセチアでも皮膚にブツブツができます。青壮年によく起きる疾患ですが、症状と経過からはむしろこちらの可能性を考えた方がよさそうです。
マラセチアは別名ピチロスポルムともいいます。人間の毛穴に生息するカビで、健康な皮膚にも存在し、特に毛穴の皮脂腺が発達して脂分の多い環境を好みます。これが通常よりも増殖し活発に活動すると炎症を生じ、いろいろな皮膚病を生じるのです。
頭皮、顔面、耳の皮膚の表面で炎症を起こすと脂(し)漏(ろう)性(せい)皮膚炎、胸や背中、二の腕の毛穴で増加した場合はマラセチア毛包(もうほう)炎、体の皮膚の表面で増えると癜風(でんぷう)という状態になります。顔に通常できるニキビがばい菌によるのに対し、マラセチア毛包炎はカビによるニキビだと説明するとイメージが湧きやすいと思います。
軽症の場合は体や二の腕に少数の赤いブツブツが生じる程度ですが、重症化すると多発し白く膿を持ちます。原因のカビは高温の状態を好むため気温が高くなる夏季にもっとも増えますが、スポーツをよくする人や高温の職場で働く人は夏季以外でも生じます。
ステロイドホルモン剤も皮膚のカビを増やしてしまうことがあるので、膠原(こうげん)病などで内服薬として、また湿疹などで外用剤としてステロイドホルモン剤を使っている方も生じやすくなります。
他人に感染するか心配される方もいますが、全ての人の毛穴に存在しているので、タオルの使い回しなども含めて生活の上で特に制限はありません。
治療法ですが、マラセチア毛包炎に対してはカビを抑える薬剤(抗真菌剤)を根気よく塗ることで改善します。また重症の場合は一時内服の抗真菌剤を併用します。抗真菌剤は特殊なものではないので、一般の皮膚科で治療可能です。
しかしマラセチアはいくら強力な治療を長期にわたって行っても完全に消滅させることはできません。ですから根治というのは難しく、マラセチアが増殖しやすい条件がそろうと毛包炎は再発します。
以上、マラセチア毛包炎として書き進めてきましたが、適切な診断を受けるため、お近くの皮膚科を受診することをお勧めします。