【質問】ヘリウムガス吸うと危険?
中学生の娘を持つ母です。先ごろ、12歳のアイドルがテレビのバラエティー番組で声を変えるヘリウムガスを吸ったところ、一時意識不明になったと報道されました。脳の血管に空気が入ったそうです。ガス入りの缶は遊び道具として売られていて子どもも簡単に手にできると思うのですが、そんなに危険なものなのでしょうか。
県立中央病院総合診療科 市原新一郎先生
【回答】命に関わることも
ヘリウムガスは、吸い込んでしゃべると甲高い、いわゆる「ドナルドダック」のような声になることから、さまざまなイベントやパーティーなどを盛り上げるために使われているようです。ヘリウムガス自体には毒性はありませんが、実は、使い方によっては命に関わることがあり、注意が必要です。
ご存じのように、人間は酸素を吸って生きています。大気中には約20%の酸素が含まれており、これを利用しているわけです。ヘリウムガスを吸い込むと、肺の中の酸素を含んだ空気がヘリウムガスに置き換わります。その結果、酸素の濃度が薄くなってしまい、肺内が「酸欠」の状態になってしまうのです。
これにより、急に意識を失ったり、呼吸が止まってしまったりと、命の危機に直面してしまう状況が生じます。特に、風船を膨らませる時に使うヘリウムガスは濃度がほぼ100%といわれていますので、絶対に吸い込んではいけません。もちろん、風船から直接吸い込むこともやってはいけません。
パーティー用に売られているようなスプレー缶タイプの場合には20%の酸素が混合されていることが一般的なようですが、人によって身体の状態や使用状況などは全く違ってきますから、やはり十分な注意が必要なことは言うまでもありません。
もう一つの問題として「スプレーから勢いよく出たガスを一気に、胸いっぱい吸い込んでしまうこと」が挙げられます。今回の痛ましい事件は、詳しいことは分かりませんが「脳空気塞栓(そくせん)症」が原因だとされているようです。これは血管の中に空気が入り込んで脳血管を詰まらせてしまい、脳卒中と同じようなまひや意識障害などを来す病態です。
スプレーから勢いよく出たガスを一気に胸いっぱい吸い込むと、肺の中の圧力が瞬間的に上昇します。これにより、肺内にある肺胞と呼ばれる非常に小さな袋状の構造物(ここで酸素と二酸化炭素のガス交換が行われています)のいくつかが破れてしまい、そこにある毛細血管からガスが血管内に流入して血管が詰まり、さまざまな症状をもたらすのです。
これは「肺気圧外傷」といい、スキューバダイビングをする人に時々みられる病態と同じです。さらに被害に遭われた方は12歳ということですから成長過程にある子どもの肺であったことも、このような状況を招いた原因の一つとされています。
この障害はガスの種類には関係なく、例えば酸素吸入用のスプレーでも発生する可能性がありますので、スプレーから吸い込む場合には、直接口を付けない、胸いっぱいに吸い込まないなどの注意が必要です。
このように、ヘリウムガスを吸うことは、そのスプレー缶の使い方も含めて、さまざまな問題をはらんでいます。特に子どもの場合は安易な使用は避けた方がいいでしょう。