徳島県小児科医会 日浦恭一
味覚の発達や食事習慣の獲得には噛むことが大切です。子どもの食事が哺乳から普通食に変化していく中で様々な性質の食品を口にすることによって噛むことを覚え、噛むことによって未知のうま味を経験することができるようになります。
最近の食事はファストフードに代表されるように世界的に画一化され、誰が食べてもおいしく感じるような味付けがなされています。これらは柔らかくて口当たりがよく、甘味や脂肪分の多い食品になっていますから食品を口に入れるとすぐにおいしいと感じる訳で、しっかり噛む必要はありません。
これに対して伝統的な食事は素材の味を生かすように、しっかり噛むことで素材のうま味を引き出すように調理されています。硬いものをゆっくり、しっかり噛むことで唾液や消化液の分泌がよくなり隠れた食物の複雑なうま味を引き出すことができます。
食物を噛むことは成長とともに発達するものです。乳児期から幼児期に、離乳食から普通食へ変化する時期にゆっくり噛む習慣をつけて、噛むことによって食物のおいしさが増すことを教えてやります。
最近、食事を噛まずに食べる人が増えています。子どもの頃についた習慣は成人になっても簡単に変えることはできません。子どもの頃からゆっくり時間をかけた食事を行い、健康的な食生活を送りたいものです。
徳島新聞2010年3月17日掲載