徳島県小児科医会 日浦恭一
単純ヘルペスが重要な疾患である理由のひとつがヘルペス脳炎です。日本では年間100人くらいがヘルペス脳炎にかかると言われます。ヘルペス脳炎は他の脳炎に比べても重篤で致命率が高く、治っても神経後遺症を残します。
ヘルペス脳炎は発熱で始まり、頭痛、嘔吐、けいれんなどが見られます。経過にとともに意識障害が進行し、けいれんが持続します。症状だけでは他の原因による脳炎と区別することはできません。脳炎の発病時に単純ヘルペスに特有の皮膚症状や口内歯肉炎などが見られることは少ないとされます。
ヘルペス脳炎の発生は皮膚のヘルペス病巣から神経を経て中枢神経系に感染がおよぶものです。これは新生児ヘルペスによる中枢神経型ヘルペスがウィルス血症を介して全身の臓器や中枢神経に感染が拡大するのに比べて、ヘルペス脳炎では中枢神経のみに限局した感染であるとされるのです。
発熱、けいれん、意識障害などの症状から脳炎を疑った場合にはヘルペスウィルス検出の有無に関わらずヘルペス脳炎として抗ウィルス剤治療を開始すべきであるとされます。
ヘルペス脳炎は非常に重篤で、治療をしなければ70~80%が死亡し、治療しても約10%は死亡、生存者も重度の神経後遺症を残すとされます。できるだけ早い時期に治療開始する必要があるのです。
徳島新聞2010年2月24日掲載