姿勢保てず歩行困難
【質問】71歳女性です。長年、首と腰から脚にかけての痛みに悩まされています。病院を幾つも回り、MRI(磁気共鳴画像装置)やレントゲン撮影などの検査を受けました。腰での診断結果は「腰椎すべり症」や「脊柱管狭窄(きょうさく)症」でした。首のエコー検査は異常なしです。腰、首ともしびれはなく痛みだけ。長時間同じ姿勢が保てず、背中から尻、脚に広がる痛みに苦しみ、歩行も困難な状態。痛みのある太ももの筋肉が衰えて細くなっています。何科を受診し、どんな治療を受ければいいですか。
徳島大学大学院医歯薬学研究部
脊椎関節機能再建外科学 千川隆志 先生
手術で背骨を矯正固定
【答え】脊椎外科の視点で考えると、立位の姿勢異常が年齢とともに進行して胸腰椎が後ろに曲がり、背中や腰が曲がった状態になっていると考えられます。
その影響で膝関節が屈曲し、頚椎が前に曲がっているのではないでしょうか。このような姿勢異常になれば首や腰の痛みが出ます。長時間立っていることや、歩くことができなくなります。また、腹部を圧迫するために逆流性食道炎になる場合があります。
原因は、子どもの頃から背骨が曲がる変形が進行する場合と、成人してから変形が出る場合の2通りがあります。どちらも50歳以上になると、加齢性の変化が起き、椎間板(軟骨)や背骨の変形が進みます。
骨粗しょう症の圧迫骨折も加わって変形が強くなることも多いです。高齢者の変形は女性に多い症状で、女性ホルモンとの関連性が指摘されています。閉経後に変形が進行します。
症状としては主に2通りの痛みがあります。一つは曲がっている背骨の周囲の痛みで、首、背中、腰に痛みが出ます。もう一つは神経の痛みで、尻や脚が痛くなります。
診断は立位で背骨を正面と側面から撮影するレントゲン検査で行います。
最近はMRI検査をよく行いますが、仰向けに寝て行うMRI検査では、立位での姿勢異常は分かりません。MRI検査はすべりや変形に伴う硬膜、神経根の圧迫や狭窄を調べます。また、前後屈や側屈、立位などの動態撮影は難しいので、脊髄造影検査による動態撮影を行う必要があります。
治療はリハビリによる筋力訓練、薬物治療による痛みの抑制があります。
筋力を維持、増進して投薬で痛みを抑制できれば動作の改善が期待できます。
これらが困難な場合は手術での治療になります。多くは背中や腰の痛みが強い場合です。逆流性食道炎や家事ができないため手術を希望する人もいます。
手術は背骨を金属で矯正固定して、自然に近い位置に戻します。多くは下位胸椎から骨盤までの固定が必要で、大きな手術になります。6、7時間に及ぶ大手術です。手術後3、4カ月で骨が癒合すればコルセットを除去し、日常生活に戻れます。
しかし、大きな問題点があります。それは、背骨を固定するため、背骨が曲がらなくなることです。草むしりや中腰での畑仕事、足の爪切りや靴下を履く-といったことはできなくなります。和式の畳の上での生活から洋式のベッドと椅子の生活に変更するなどの必要があります。まず、背骨の変形矯正を行っている整形外科で脊椎担当医の受診を勧めます。
背骨の姿勢異常がなく、整形外科の疾患に該当しない場合は、筋膜の炎症による筋膜性疼痛症候群を疑います。治療はエコー検査しながら局所注射をします。
73歳女性の側面のレントゲン画像。手術前(右)は背骨が大きく曲がっているが、手術後(左)は金属で固定し、自然に近い位置に戻っている