【質問】 痛くて肩上げられない
40代の女性です。最近、肩を上げると痛くて十分上げることができません。周囲からよく、五十肩だと言われるのですが、五十肩は何歳くらいからなるのでしょうか。また、なってしまうと治らないのですか。何科を受診すればいいか、また、運動や食事で予防、緩和ができるかどうかも教えてください。
【答え】 五十肩症候群 -早期に的確な診断受けて-
遠藤整形外科 院長 遠藤健次(名西郡石井町石井)
中年以降の慢性肩関節痛と可動域制限は五十肩と呼ばれることが多いですが、これは単一の疾患ではなく、石灰沈着性腱板炎(けんばんえん)、腱板断裂、肩関節周囲炎など複数の疾患を含んだ症候群に当たります。
この中には適切に治療すれば早期に回復する疾患があります。そのため最も大切なのは、最初に的確な診断をすることです。診断せずに放置した場合は、後の経過(予後)に悪影響が出ます。
例えば、石灰沈着性腱板炎は、急激に発症する疼痛(とうつう)と運動障害・夜間痛が特徴で、エックス線検査によって腱板の石灰化像が見えるので容易に診断できます。発症間もない時期に消炎鎮痛剤やステロイド剤などを投与し、運動器リハビリテーションを的確に行うと、多くの症例で劇的に早期症状軽快が期待できます。
しかし、診断治療が遅れると、関節包の縮小による肩関節拘縮を併発し、治療期間が長期化したり、石灰が固形化して手術摘出が必要となったりすることさえあります。
手術でよくなる五十肩症候群の代表に腱板断裂があります。その多くは、肩を外旋(卓球のバックハンドのような動き)する際に使う筋肉の腱が断裂するのですが、肩の痛みと外旋筋力の低下が出現し、腕を上げるのが困難になります。転倒して手をついた際に発生することが多いですが、日常生活の中で原因なく発生することもあります。
保存的治療を3カ月以上受けても改善傾向のない腱板断裂は、手術による修復法の適応があります。現在多く行われている腱板修復術は、安定した術後成績が報告されています。
断裂発生後に「どうせ五十肩だからすぐには治らない」と諦め、長期間治療を受けていない方が時々います。このような場合、1~2年すると筋肉の萎縮脂肪化が起こり、術後の筋力回復が悪くなります。腱板断裂の診断は、MRIや超音波検査で容易に行えますので、治療機会を逃さないためにも早期の整形外科専門医への受診が必要です。
肩関節周囲炎は、石灰沈着性腱板炎や腱板断裂のような目立った異常がなく、狭義の五十肩といえます。40~60歳でよく発症し、70%は発症から約2年で自然軽快する、予後の比較的良好な疾患です。
肩関節周囲炎では、肩を外旋する際に使う筋肉の腱と、肩を内旋(エプロンのひもを後ろで結ぼうとするような動き)する際に使う筋肉の腱の間にある膜(腱板疎部(けんばんそぶ))に問題が起こります。本来は薄い膜が、周囲の靭帯(じんたい)とともに著明に肥厚・癒着します。その結果、肩の外旋と内旋の両方が障害されて同時に腕を上げるのが困難になり、夜間痛や運動痛を強く伴います。
治療のポイントは、初期の炎症を適切な薬物治療(消炎鎮痛剤やステロイド剤などの投与)で軽減し、誘発痛の少ない肩の運動(特に前方屈曲)を取り入れることにあります。肩・腕の保温も重要です。痛みが減れば可動域制限は徐々に改善しますが、やはり1年はかかることが多いです。
難治例では手術による治療も行われます。肩関節周囲炎は糖尿病での出現率が高いことが分かっていますので、日ごろからの運動不足と食事の摂取方法に注意すれば、予防につながります。