徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 がん検診の被ばく心配

 50代の女性です。40歳から毎年、日帰り人間ドックを受けています。ところが、ある本に、がん検診を受けるとエックス線検査で被ばくし、がんになって早死にすると書いてありました。がんではないのに「疑いあり」とされるケースが多く、医師はがん検診を受けない、早期胃がんは6~7年変化しない-とも記されていました。エックス線検査は体にどんな影響があるのですか。検診は毎年は受けない方がいいのですか。



【答え】 エックス線 -年1回受診なら影響なし-

伊月健診クリニック 放射線科 堀安裕子(徳島市東船場町)

 人間ドックで行われる胸部エックス線や胃透視、CT、マンモグラフィなどの放射線検査は、病気の早期発見・早期治療というメリットが、放射線の影響というデメリットよりも大きく上回ることを前提に行われています。

 放射線によって人体に生じる影響には、どのようなものがあるのでしょうか。大きくは確定的影響と確率的影響に分けられます。

 確定的影響は、白内障や脱毛、不妊のように、放射線が一定の線量(しきい線量)を超える場合のみに起こり得る障害です。障害が起こる線量は、少ないもので100~200ミリシーベルト、多いもので数百~数千ミリシーベルトといわれています。

 一方、確率的影響は、遺伝子が障害されて突然変異を誘発するもので、がん、白血病や遺伝的影響が挙げられます。こちらのしきい線量はありませんが、疫学的にも200ミリシーベルト以下の線量では発がんの増加は確認されていないといわれています。

 1回の放射線検査で受ける放射線量は、胸部エックス線でおおよそ0.02~0.05ミリシーベルト、線量の多いCT検査や胃透視で5~10ミリシーベルト前後という参考数値があります。同じ検査でもスクリーニング目的の人間ドックでは、精密検査より線量が低く、検査時間も短く設定されているので、線量はさらに少なめと考えられます。これらの放射線は体内に蓄積することはありません。

 また、身体の細胞には回復効果があり、同じ線量でも間隔を空ければ影響は少なくなるので、年1回程度の人間ドックであれば身体への影響を全く無視できる量といえます。さらに、年齢が高くなるほど放射線の影響も受けにくくなるので、40歳以上であれば、放射線による影響を心配するよりは病気が見つかるメリットが大きいと考えるべきでしょう。

 ちなみに、私たちは日常的にも自然放射線を受けており、1年間に自然環境から受ける放射線量は世界平均で2.4ミリシーベルト、成田~ニューヨーク間の飛行機往復で0.1ミリシーベルト程度といわれています。この自然放射線の量も国や地域によってかなり差がありますが、放射線量が高い地域の人々にがんが多いということもありません。

 発がんに関しては、他の発がん因子(生活環境やストレス、喫煙、感染など)の影響が大きく、放射線による影響は微々たるものですので、がん予防には日常の食生活や生活環境の改善に留意する方が有効であるといわれています。

 放射線イコール悪という印象がどうしても強いですが、最近の研究では微量の放射線はホルミシス効果といって、身体の免疫機能の活性化や病気や老化の予防効果など有益性があることも分かっています。

 だからといって、むやみに受けて良いわけではありませんが、微々たる放射線を恐れることなく、うまく利用してメリットを高める工夫が大切です。部位や必要性に応じてMRIや超音波検査(=エコー検査)、胃カメラなど、放射線を用いずに情報を得る方法もありますので、これらもうまく利用しながら、今後も年1回の検診を続けられることをお勧めします。

徳島新聞2011年4月10日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.