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【質問】 肝臓に水たまり心配

 80代の女性です。健康診断を受けたところ、肝臓に水がたまっているとのことで「1年に1回くらい様子をみましょう」とだけ言われました。どういう病気で、どんな処置ができるのか教えてください。高齢なので手術などはできないのかもしれませんが、普段の生活で悪化しない方法があれば知りたいです。



【回答】 肝嚢胞 -超音波検査で経過観察-

香川内科院長 香川博幸(板野郡藍住町住吉)

 肝硬変症などでおなかに水がたまる腹水や、鬱血(うっけつ)性心不全のときに見られる鬱血肝などは、早急の治療が必要であり、今回の例とは異なるものと思われます。

 ご質問の文面から、肝嚢胞(かんのうほう)症の診断を受けたものと考えられます。肝嚢胞は、肝臓内に袋状に水がたまる良性の腫瘤(しゅりゅう)です。一般に自覚症状が少なく、偶然に、または健診などで発見されることが多いようです。腹部超音波検査の普及により、発見の頻度は増加しています。また、40歳以上の中高年層が80%と大部分を占め、性別では女性が多いとされています。

 袋状腫瘤は、肝臓のどの部位にも発生しますが、肝右葉(肝臓の右側)に多く、円や楕円(だえん)の形をしています。発育は極めて緩慢で、通常は被膜に囲まれて限局していますが、時に、非常に大きくなることがあります。内容液は無色透明から茶褐色までさまざまです。

 嚢胞は、外傷性や腫瘍性などを除いては先天的なもので、その数によって孤立性嚢胞と多発性嚢胞に分類されます。多発性肝嚢胞の場合、腎嚢胞の合併が30~50%と高率で見られ、そのほかにも、膵・肺・脾などに嚢胞の合併をみることがあります。

 先にも述べたように、通常は自覚症状が乏しく、偶然あるいは健診で見つかることが多いのですが、部位や大きさによっては、腹部膨満感や上腹部の鈍痛などを訴えることがあります。

 一般の血液検査では、ほとんどの症例で正常範囲のことが多く、肝機能異常がみられるときには、脂肪肝などほかの合併疾患を調べる必要があります。また、腎嚢胞合併例では腎機能検査も必要です。

 診断は、画像診断、特に腹部超音波検査が非常に有用です。辺縁平滑な円形の腫瘤で、内部は無エコーで後方エコーの増強など独特の所見があり、診断はそう難しくありません。

 肝臓に嚢胞状変化を来して鑑別を要する疾患としては、肝膿瘍(かんのうよう)、嚢胞性腺がん、胆管拡張症などが挙げられ、多くは、症状や血液検査を組み合わせると鑑別可能ですが、さらなる検査として、腹部CTスキャン、MRI検査や胆管造影、また、試験穿刺(せんし)をして内容物を調べることもあります。

 治療は、孤立性であっても多発性であっても、無症状である場合は放置することが多いと思います。まれに、大きさや発生部位によって圧迫症状が強いとき、嚢胞内部での出血、感染などの合併がある場合は、治療の対象となることがあります。

 治療としては、超音波下の穿刺排液で寛解が期待できますが、嚢胞液の再貯留といった再発がよくみられるなど問題も多く、再発予防の目的で、穿刺排液後にエタノールの注入が試みられることがあります。また、嚢胞壁切除術など外科的治療を行うこともあり、最近では、腹腔鏡を用いる体への負担が少ない手術法も進歩しています。

 しかし、肝嚢胞は一般には予後良好であり、肝嚢胞の診断が確定された場合、心配することなく経過観察のみで、生活も普段通りしてよいと思われます。できれば1年に1~2度くらいは腹部超音波検査を受けられ、嚢胞に変化がないか、大きくなっていないかなどの確認をしてください。

徳島新聞2011年1月30日号より転載

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