徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 感情の起伏が激しい母

 60歳の母が、1年ほど前から、うつ病と診断され、2週間に一度心療内科に通っています。感情の起伏が激しく、父や私のふとした言葉に泣き出したり怒り出したりします。母への接し方について、どんなことに気をつけたらいいのでしょう。言ってはいけない言葉などはあるのでしょうか。



【答え】 うつ病 -「自殺」も念頭に見守り必要-

田岡東病院 苅舎健治(徳島市城東町)

 うつ病の患者さんに接する際に、家族がどのような点に配慮すべきかということですが、今回の相談のケースも含め、一般的な注意点について、いくつか述べてみます。

 まず、うつ病の患者さんにとって、第一に大切なことは、心身の休息を取ることです。家族は、患者さんが安心して休めるように協力してあげることが必要です。例えば、主婦であれば、誰かが代わりに家事を行うといった配慮です。

 次に、家族が症状の波に振り回されたり、焦ったりすることがないように、落ち着いて患者さんに接することが必要です。うつ病は良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら徐々に回復していく病気です。家族が落ち着いて接してくれると、患者さんは安心感を得て、回復が促されます。

 うつ病ではどうしてもマイナス思考になり、客観的な判断ができなくなっているため、重要な決定は症状が良くなるまで先延ばしするように、本人に話しておくことも大切です。

 さらに「指示的」にではなく「支持的」に接することが必要です。指示的に接すると、患者さんが望まないことの場合、負担になってしまいます。本人がやりたいことやできることを優先して、支持的に接する方が負担が少ないのです。患者さんの気持ちやつらさを受けとめて共感するような姿勢も、支持的な接し方といえます。

 次に「感情の起伏が激しく、家族の些細(ささい)な言葉によって泣いたり怒ったりする」という今回の患者さんのケースについて、いくつか述べたいと思います。

 このような感情の動揺の背景には、患者さんの年代のうつ病に特徴的とされる、強い不安や焦燥が存在することも考えられます。この場合には、自殺を企てることが比較的多いため、そのことを念頭に置いた見守りが必要です。

 感情の動揺が大きいことと患者さんの年齢を考慮すると、認知症の合併あるいは、認知症の初期症状としてのうつ症状であることも否定できません。背後に認知症が隠れていないか検討することも必要でしょう。

 現在のうつ病の治療においては、抗うつ薬を中心とした薬物療法が行われていることがほとんどですが、抗うつ薬には、服用初期や増量時に不安、焦燥感、怒りっぽさ、衝動的な行動などからなる「アクティベーションシンドローム(賦活(ふかつ)症候群)」と呼ばれる症状が出ることがあります。そうした可能性も考えて、通院している心療内科に、一度相談してみてはいかがでしょうか。

 次に、患者さんに言ってはいけない言葉についてアドバイスします。うつ病の患者さんには、励ましの言葉は避けるべきといわれます。これは、頑張ることができない自分に対して罪悪感を抱いている患者さんを「頑張れ」などと励ますことは、かえって患者さんを追い詰めることになるからです。

 患者さんの言葉を否定することもよくないといわれます。例えば、悲観的な言葉を口にする患者さんに対し「そんなことはない」と否定するような言葉は、つらい気持ちを表現した患者さんの発言を否定する結果になるからです。

 最後に、うつ病の患者さんには、必ず希死念慮(きしねんりょ)(訳もなく死んでしまいたくなる気持ち)があると考えてよいといわれているため、心配し過ぎはよくないのですが、自殺や症状悪化のサインがないかの見守りは常に必要です。

徳島新聞2009年3月29日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.