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【質問】 退職した父に意欲がない

 2年前に退職した67歳の父親のことで相談します。退職前は何事にも積極的だった父が、仕事をやめてからは何かやりたい気持ちがあってもなかなか行動に移せず、今まで楽しみにしていたこともおっくうになっているようです。本人は「やる気があっても体がついていかない」と言うのですが、最近は話をするのも面倒そうで、友人が遊びに来ても気の抜けた返事しかしません。このままにしていいのだろうかと悩んでいます。これは病気なのでしょうか。治療が必要なのでしょうか。



【答え】 老年期うつ病 -別の病気の有無も調べて-

クリニック釈羅 院長 中西 昭憲(板野郡松茂町広島)

 「意欲がなくなり、楽しい感情が薄れてきた」との相談からは、老年期のうつ病が考えられますが、同じような症状を伴う病気があるので、まずその病気に対する検査が必要です。

 その具体的な病名は、高血圧症・心筋梗塞(こうそく)・脳血管障害・糖尿病・認知症で、有無を検査する必要があります。特に、脳血管障害や脳委縮があるのかどうかをCTやMRIなどの画像で確認することが大事です。お父さんに、近くの病院で検査を受けるように勧めてください。

 検査で症状の原因が身体に見つかると、その病気を治すことでうつ病的な症状は軽減されます。また、認知症であっても、薬を服用することで同様に症状は軽くなります。

 検査で異常が見つからない場合は、「老年期のうつ病」が考えられます。

 うつ病には憂うつ感(抑うつ症状)と、いらいら(不安・焦燥感)、おっくう感(抑うつ症状)の3大症候があります。さらに、朝に比べて夕方に気持ちが楽になる日内変動や、眠りが浅い、熟眠感が取れない(睡眠障害)、食事がおいしくない、食欲がない(食欲異常)などがあり、症状が進むと、生きている価値がない、死にたくなる(自殺念慮)などの症状が出てきます。

 全人口の5-7%にみられる病気ですが、日本ではうつ病などの精神疾患に偏見が残っています。毎年3万人もの自殺者が出ている背景には、その90%がうつ病を中心とした精神疾患との指摘がありますので、高血圧や糖尿病と同様、早期発見・早期医療をすれば、新たな人生を踏み出すことができ、自殺者を減らすことにもつながります。

 お父さんは、65歳まで勤められていたとのことなので、多忙な生活を送っていたものと思います。仕事が面白く、気を抜く暇もないような生活を送っていたのではないでしょうか。

 そのような社会生活を送った人が突然、刺激のないスローライフの状態になると、時間の過ごし方が分かりません。暇を持てあましているうちに体のリズムを崩し、ふさぎこむような状態に陥ります。気がつくと、周りから気力や体力、情熱が失われているようにみることがあり、本人も訳が分からずに戸惑っているのではないかと思います。このような状態なので、「頑張って」などと励まさないでください。

 最近は、うつ病に効く薬がたくさんあり、治療をすれば治ります。ぜひ心療内科や精神科の専門科を訪ねてください。必ず元気な生活が戻ってきます。

徳島新聞2007年11月25日号より転載

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