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【質問】 人工関節手術に不安

 60歳の男性です。8年前にネフローゼ症候群を発症し、3カ月間入院しました。ステロイドを多いときには1日6錠ほど服用し、退院後も約6年間は1~2錠をのんでいました。最近、左大腿(だいたい)部に痛みを感じて、整形外科を受診しました。レントゲン撮影などによって「大腿上部骨頭壊死(えし)」と診断され、担当の医師には人工関節手術を勧められています。左脚を手術しても、右脚まで同じ病気なるのではないかと不安です。



【答え】 特発性大腿骨頭壊死 -主治医と話し合い、早期の施術を-

吉田整形外科 吉田 成仁(鳴門市大津町木津野)

 問い合わせの病気は質問にあるように、「大腿骨頭壊死」と考えられます(医学病名では「上部」は除かれます)。耳慣れない病気ですが、骨盤と脚をつなぐ付け根の部分(股(こ)関節)の病気です。


 股関節は骨盤側のへこみ(臼蓋(きゅうがい))に大腿骨の上端の球形をした部分(大腿骨頭)がはまり込んでできています〈図1参照〉。

 この大腿骨頭の一部または大部分が血流の障害で死んでしまう病気が大腿骨頭壊死です。壊死とは体の組織が死ぬことです。

 大腿骨頭壊死は、大腿骨の骨折や脱臼、潜水病などで血管が詰まったり、切れたりするなどのように原因が明らかな場合(症候性大腿骨頭壊死)と、そうでない場合(特発性大腿骨頭壊死)に分けられます。

 ステロイド服用後に起こる骨頭壊死は、この特発性大腿骨頭壊死の範(はん)疇(ちゅう)に入るものですが、血管が詰まる原因は解明されていません。この病気の50%が膠原(こうげん)病やネフローゼ症候群の治療に服用したステロイドが原因とされ、アルコール多飲が30%、その他が20%です。ただ、ステロイドの服用量と発症頻度に明らかな関係はありません。

 また、特発性大腿骨頭壊死は、50%以上の確率で反対側に起こる両側性で、時にはひざや脚の関節の骨が壊死に陥ることもあります。ただ、反対側に起こる場合の多くは、片方に起こった後1~2年以内とされています。質問の男性の痛みがいつごろからあったのかはっきりしませんが、発症後2年以上経過しているのなら、現在はステロイドを服用していないようなので反対側に起こる確率は少ないと思われます。

 症状は、立ち上がりや階段を上り下りする際に股関節から大腿部の痛みで発症します。いったん痛みは軽快しますが、しばらくすると再発して徐々に増強し、股関節の動きも悪くなって歩行困難を来す場合が多いようです。

 診断は、レントゲン検査でされますが、初期にはレントゲン写真に異常を認めず、疑わしい場合は、MRIや骨シンチといった検査を行います。病気が進行していくと、レントゲン写真で大腿骨頭がつぶされた形となり、さらに進行すると股関節の軟骨のすき間がなくなり、最後には臼蓋部の骨も壊されてしまいます。

 治療は病気の進行度と壊死の範囲の大きさによって異なります。初期には免荷(重い物を持たない、つえをつくなど)や筋力訓練で経過をみますが、残念ながら大多数では壊死が進み、手術が必要となります。

 手術は、壊死の範囲が小さい場合は、骨の移植(血管を付けた骨を壊死部にはめ込む)や大腿骨の骨切り(骨を切って回転させ、正常な部分を関節面に接するようにする)を行います。

 壊死の範囲が大きかったり、年齢が高かったりする場合(一般的には60歳以上)は、人工物と置き換える手術をします。臼蓋が壊されていない場合は、大腿骨頭の部分だけを人工物に入れ替える人工骨頭置換術を行います(高齢者の脚の付け根の骨折でよく行われる手術です)。臼蓋部も壊されている場合は、臼蓋と骨頭を両方とも人工物と置き換える人工関節手術をすることになります〈図2参照〉。

 どちらの手術もこの病気の治療法としてはほぼ確立された方法ですが、もちろん大きな手術なので種々の危険はあります。ただ、そのままでは良くなるとは考えにくく、待機による筋力の低下も危惧(ぐ)されます。主治医と相談し、早期に手術を受けることをお勧めします。

徳島新聞2006年2月19日号より転載

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